5 crystal* ページ8
オロチside
それからしばらく経ったが、Aと名乗った少女はぎこちない動きをしている。目覚めたら知らない場所にいたのだから不安になるのも当然だろう。
夕べは倒れていたAを元祖の本拠地であるこの屋敷に連れて帰ると、居間にいたえんらえんらがこちらに気付き、驚いて声を上げた。
事情を説明すると、慌てながらも手際よくAの傷の手当てを始め、布団を引いたりと世話を焼いていたので助かる。
「妹ができたみたい〜!」と喜ぶえんらえんらを他所に、先ほどよりもだいぶ顔色が良くなったAをみて安心した。
「……オロチさん?」
その声に意識が呼び戻され、見るとこちらを遠慮がちに見つめるAと目が合う。長く考え込んでしまったことを反省する。
「……あぁ、すまない。お前のことをAと呼んでもいいか」
「は、はいっ 」
Aは少し顔を上げたが、突然黙り込んでしまった。
「どうした、まだ傷が痛むのか?」
「いえ……名前で呼ばれたのは久しぶりで…… 」
そこに只ならぬ事情があるのを誰でも感じるような言い振りだった。まだ出会って数分の間柄だが、少し、聞いてみてもいいだろうか。
「……そう言えばなぜあんなところに倒れていたんだ?」
「言いたくなければ無理には聞かない」と付け足してAの返事を待つ。やはり、よく知らない者には言いづらい……とは思う。
「その…… 」
けれど、少し緊張もほぐれたのか、Aは視線を彷徨わせ、言葉を選ぶようにして話始めてくれた。
「私はセレスティアルティアー族の最後の生き残りのようで……森の奥で母と二人で隠れるように暮らしてきました。そこで母は一族のことについて話してくれて……そこで私には守らなければいけない”もの”があるということを教えられました」
守らなければいけないもの……?その言葉に首をかしげる。私は少し考えてから聞いた。
「その”もの”とは?」
するとAは俯いて悲しげに首を振った。
「ごめんなさい……それが、分からなくて。記憶がないんです。ただ母は、その”もの”の力は善にも悪にもなるのだと。世界を変えられる力もあると言っていました。でも私自身、よくわからないんです 」
その言葉になんとなく予想はしていたが、どうやら彼女は並々ならぬ事情を抱えているらしい。
しばらくお互いの間に沈黙が流れた。
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作者名:すみ恋。 | 作成日時:2015年3月21日 13時