*First Step* -今度こそ踏み出すために-

~クリスマスイブ~　番外･HPB編2 ページ32

それは、惨劇だとか、悪夢だとかいう言葉でも足りない、いや、言葉では絶対表せないほど、絶望的な出来事だった。

マリエさんに止められたのに、外に出たのが馬鹿だった。

たまたま通り掛かった路地裏で、ソウジロウ君ーーそれも、殺人鬼に斬りかかられている彼に遭遇するなんて。

剣聖と名高い彼でも、あの殺人鬼の攻撃は避けきれていない。
隣で闘うアカツキさんも。じりじりと削られていくHPが、どんどん危険信号のような色に近づいていく。

わたしのいるここは、殺人鬼からは死角になって見えないようだった。それが幸いなのか、不幸なのか。


目に痛いくらいの鮮やかな血が、白い雪の上に落とされた。

と、同時に、ドサッ、と地面に崩れ落ちるものがひとつ。

「……っソウジロウ、君っ」

次にまばたきをしたときには、アカツキさんも地面に倒れていて。

薄気味悪い笑みを浮かべて立ち去っていく殺人鬼の後ろ姿を呆然と見つめながら、必死に目の前の状況を理解しようと頭を回らせる。

嘘じゃ、ない。
目の前には光の粒子となっていく二人の亡骸。
……生き返るとか、そんな理屈は抜いといて、さ。

「や……こんなのっ……!!」

膝から地面へ崩れ落ち、両手で顔を覆った。

目を閉じても、あの瞬間が焼き付いて離れない。

と、複数の足音がパタパタと聞こえてきて、驚いて振り向く。

そこにいたのはマリエールさんやヘンリエッタさんを筆頭とした女性逹だった。

「……あ、おった！Aやんっ、ソウジロウはっ」
「ま、りえーるさ……」

マリエールさんに抱き締められ、嗚咽が止まらなくなってわめくように泣き出した。

「……辛かったな。怖かったやろ。苦しいよな。でも今は……ソウジロウを、迎えに行こう？」

涙でぐしゃぐしゃの顔を隠しもせずにこくっと頷いて、ヘンリエッタさんに背中を押されながら神殿へと向かった。

ーーこんなの、最悪のクリスマスイブだ。

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