07.青春 ページ7
｢俺部活行くわ、じゃねー｣
水曜日の5限終わり、｢中間テスト迫ってるから遊んでないで勉強しろよ｣という二宮先生の忠告があったLHRの後、
緊張してた頃が懐かしいと思えるほどに部活を楽しみにしている永瀬は、教室を飛び出した。
｢今日も行くの？あれから会えてないんでしょ｣
｢今日こそいるかもしれないし｣
｢なーに言ってんの。センパイも幽霊部員なんだよ絶対｣
｢んーーだとしても！会いに行かないで後悔するより全然いい！！｣
納得のいかないような顔をしているミナミと別れ、私はその足で美術室を目指す。
ドアを引くと、やはりいつものように誰もいない薄暗い部屋が見えただけだった。
あの時のように、ツンと鼻を掠める絵の具の匂い。
それを上書きするかのように香る、甘い先輩の匂いが記憶も上書きしていく。
｢なんで、いないの…｣
ポツン、とドアの前で立ち止まる。
｢永田？｣
｢…？！二宮せんせ、｣
｢どしたの、こんなの所で｣
｢あ、いや…部活あるんで…｣
｢え、アナタ美術部だった？｣
｢え、…はい一応｣
通りすがった二宮先生がキョトンとした顔で、顎のほくろを触りながら｢美術部ねぇ…｣と言う。
｢あ、じゃあ岸のところか｣
｢！！！！そうです！岸センパイが部長です！｣
｢おー怖い怖い、すごい食いつくじゃない｣
｢いや、だって、…いやなんでもないです｣
しまった、食いつきすぎた。センパイに会いたい気持ちが先走りすぎて、必死過ぎたかも。
そう思った時にはもう遅い。
｢…、なるほどねぇ｣
ニヤニヤしてる！！！すごいニヤニヤしてる！
くふふ、と腕で口元を隠した先生は、｢まぁ頑張りなさいよ、｣と言うと、チラッと横を見た。
｢アナタの王子様の登場〜｣
｢じゃーね、あんまりがっつきすぎると引かれちゃうよ♡｣とウィンクして、二宮先生が歩き出すと、
｢あ、にのみーじゃん、何してんすか？｣
｢やを付けなさい、やを。お前がブチョーとか頼りないねぇ｣
｢いやまぁ、成り行きって言うか…てか失礼っすよ！！｣
二宮先生の肩越しに見える、久しぶりに見た顔。
この間と変わらないちょっとだけ崩れた制服。潰されたカカト。緩い位置で結ばれたネクタイ。
・
・
｢あれ？あの時の1年生じゃん！｣
・
・
鼓動が、突然早くなる。
*
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作者名：みう
| 作成日時：2021年9月9日 11時
