03.｢おいで｣ ページ3
｢あっ、…永田Aです、！！｣
差し出された右手に、咄嗟に反応して握ってしまった。
一気に顔と手に熱が集中する。
｢絵描くの、好きなの？｣
｢え、？｣
｢いや、美術部入る子あんまりいないからさ。好きだから入ったのかと思って｣
センパイがキョトンと丸い目をこちらに向けて問う。
まさか、ここで｢内申の為です。幽霊部員になります｣なんて言えるわけが無い。
｢描くのは得意じゃないんですけど…見るのは好きなので…｣
苦し紛れについた嘘に、センパイは｢そうなんだ｣と疑うことも無くニッコリ笑った。
｢あっ、ごめんなさい！｣
パッと勢いよく離れる手。話に夢中になっていて、ずっと握っていた。
まだ私の手の平は先輩から伝わる熱を覚えていて、冷めなかった。
｢2年生は3人いるんだけど、みーんな幽霊部員。3年は俺だけ。緩いからあんまり緊張しなくていいよ｣
センパイは少しだけ困ったように笑いながら笑う。やっぱり内申のために入部する人がほとんどなんだ。
｢活動日って、…？｣
｢自由だよ。いつでもいい。放課後来たい時に来る。まぁ俺も絵得意じゃねぇし、来てボーッとするだけなんだよね｣
｢随分自由ですね｣
｢ま！俺が部長だからね！｣
ニカッて眩しいぐらい口角を上げて笑うセンパイは、｢じゃあ、帰ろっか｣と椅子の上に置かれた私のカバンを手にして、歩き出す。
｢え、ちょ、あの！！｣
｢んー？｣
｢返してください、！｣
｢じゃ早くおいでー｣
永瀬に比べたら少しだけ小さい身長。なのに驚くほど長い足とすらっとした体、綺麗な大きい背中を追いかける。
・
・
｢1年生集合ーーー！！！｣
グラウンドから聞こえる笛と誰かの声を耳に、足を踏み出した。
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作者名：みう
| 作成日時：2021年9月9日 11時
