13.右と左 ページ13
｢遅いやん、何してたんこんな時間まで｣
｢…部活ですけど！｣
最寄り駅の改札を出ると、そのすぐ横で私の目の前に立つ永瀬。
｢逆に聞くけど、永瀬ことなんでこの時間までいるの？今日はオフって言ってなかった？｣
｢待ってたんですぅー、もー俺足パンパン｣
｢言ってくれればよかったのに｣
｢言ってもセンパイとやらに会ってたら来ないだろ｣
行くぞ、と歩き出す。本当に自分勝手な男だ。
永瀬の家は改札を出たら右に曲がる。私は左。
｢右曲がらなくていいの？｣
｢送ってく、お前も一応オンナだからなー｣
｢一応って…｣
私がムキになって背中を思い切りだから叩けば、｢いてぇ〜折れたわ｣と言いながらガハガハ笑う。
細いから本当に折れそうで怖い。…センパイとは、大違い。
｢というかなんで待ってたの？｣
｢俺ん家今日かーちゃん帰ってくんの遅いのよ｣
｢…え、だから何｣
｢お腹空いたなーって｣
立ち止まんな行くぞ、と足が止まった私の手首を掴むと、ズンズンと進む。
そうだ、この男は細身のくせにご飯はよく食べるジコチュー男だった。
｢廉くん、いらっしゃい！なんだか今日は来そうだなって思って多めに作ったの、ご飯食べてって！｣
永瀬の姿を見たお母さんは、嬉しそうに言う。永瀬も｢オバチャンありがと｣と娘の私よりも先にリビングに直行。
｢こんのクソ男…｣
靴は綺麗に脱いでるし、お母さんの前では礼儀正しいから余計に悔しい。
｢廉くんはよく食べてくれるから気持ちがいいのよ｣
お母さんに促されて座る。隣には目の前のご飯に目を輝かせている永瀬。
この状況に反論したい気もするけど、なんだか疲れてしまった。
ブーブー、とポケットの中の携帯が揺れる。
｢なー後にしてやー。俺お腹すいたって言ってるやん｣
｢ちょ、ちょっと待って｣
急いで携帯を見ると、やっぱりセンパイからのLINEで。
『ちゃんと家ついた？』
短いけど初めてLINEで会話ができている事に、また胸がどくどくとうるさい。
『着きました！LINEで話せるの新鮮ですね』
と、返信をする。チラッと永瀬を見ると、ジトーーっとこちらを恨みがましい目で見ていた。
｢ごめんごめん、食べよ｣
｢いただきまーす｣
いつもなら嫌いで食べない野菜だって、今日はなんだか食べれた。
これも、センパイの魔法なのだろうか。
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作者名：みう
| 作成日時：2021年9月9日 11時
