02.PM16:00 ページ2
カチカチ…と静かな教室に刻まれる時計の音。
夕焼けの光がカーテンの隙間から覗き込む。
｢16時で合ってるよね？｣
事前に配られていた招集の紙をもう一度確認するも、やはりそこに記されていたのは｢集合16時 美術室｣という文字。
今日は顔合わせの日。他の部活動に入った子達は、先輩たちとの顔合わせに胸を踊らせていた。
｢なー俺人見知りやん｣
｢見えないのにね｣
｢先輩と上手くやってけんのかなー｣
教科書を無造作にカバンにツッコミながら、永瀬は少し不安そうな顔をしていた。
中学からの仲の永瀬は、一見フレンドリーに見えるけど実は隠れ人見知り。
初対面の人間に心を開くことはまず無い。
その反対で、1回でも心を開いたお気に入りの人間に対しては、犬と見間違えるほどキャンキャンと付きまとう。距離感がバグってる人間だ。
｢じゃ、俺15:50に集合だから行くわ｣
｢うん、頑張ってね｣
さっきまでの不安そうな顔はどこに行ったのか、楽しみを隠しきれていない顔で教室を出て行った。
集合時間の3分前、15:57。今頃永瀬は顔合わせが始まっている時間。
薄暗い教室の中。木でできた四角い椅子に腰を掛ける。微かに香るツンとした絵の具の匂い。
タンタンタン…と廊下から音がする。キュッと言う音が美術室のドアの前で止まる。
｢あれ…入部した子？｣
｢あ、はい、あの、…｣
｢あぶねー！ごめんね、待ったでしょ｣
｢いや、全然…！｣
少しだけ額に浮かぶ汗。少しだけ肌寒いというのに捲られたシャツ。緩い位置で締められたネクタイ。
｢今年は1人かな、去年に比べたら少ないね｣
ニッコリ笑ったその人は、太陽みたいな人だった。
長針が12を指す。時刻は16:00。
窓なんてひとつも空いていないのに、風が吹いた気がした。
・
・
｢俺、3年の岸優太。よろしくね｣
差し出された右手は、男の人を象徴するような大きな手だった。
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作者名：みう
| 作成日時：2021年9月9日 11時
