【仮住】明日もここで (ページ9)

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「天彦さん！コーヒー飲みますか？」
依央利さんが声をかけると同時に会釈すると固まってしまった。天彦さんと呼んでいたことから最年長の天堂さんだろう。
「……誘拐してきたんですか？」
ここの住人はお互いを信用していないのだろうか。ここまで誘拐を疑われると、私も誘拐されたような気持ちになってくる。
天堂さんに事情を説明してくれている途中、伊藤さんが呟く。
「Aも風呂入ってきたら？」
一瞬空気が静まり返るが、テラさんが「たしかに」と返してから皮切りに、皆が話し出した。本橋さんにお風呂場へ案内してもらい、そのまま入ることになった。
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全身を洗い終えると、湯船に浸かった。やはり冷えた体には暖かいものが1番だと思う。体の芯が温まるのを感じながら、どうやって家に帰るか考える。土日は休業なので、鍵を取りに行けるのは月曜日だろう。さすがに3日もお世話になるのは申し訳ないので、明日にでも業者に頼んで鍵を開けてもらおうか…。なんて考えていると、のぼせかけたので、お風呂から上がる。ドアを開けると真新しい下着とパジャマがあった。あとから知ったのだが、本橋さんが買って来てくれたらしく、きちんと全額返した。
そこからリビングへ戻ったところで現在に至る。
まず一つ一つ状況を整理していく。ポールダンスをしている天堂さん、冷蔵庫の前で鼻にティッシュを当てているテラさん、ソファで何か食べている伊藤さんと、その横でビニール袋を被っている人、目の前で女又隷契約を迫っている本橋さん…。
まず、1番近い本橋さんを落ち着かせよう。
「本橋さん、落ち着いてください…というか、女又隷契約ってなんですか！？」
「落ち着いてますよ？僕がAさんの命令を何でも聞くようになります！これが契約書です。読み上げますね。」
そう言うと本橋さんは契約書を読み上げ始めた。
「一つ、本橋依央利には、何を要求されても断る権利はありません」
「えぇ…」
「二つ、本橋依央利は、でもなんの見返りも求めません」
「ん…？」
「三つ、ゆえに頼んだ側は、罪悪感を感じる必要は全くありません」
「無理ですよ！」
「四つ、カンチガイしないこと。本橋依央利はあくまでも前向きで自発的な女又隷です」
「前向きで自発的な女又隷…？」
「ということで、Aさんも僕と契約しましょう！」
ツッコミが追いつかないまま契約を迫られる。
「さぁ、ほら、早く捺印しよう！」
押し問答が続く中、大きな音が部屋に響いた。