【仮住】明日もここで (ページ6)

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「あ、私はそろそろ帰らないと…！」
作業が一段落した所で彼は言う。
「分かりました…確かにかなり時間を取ってしまいましたね…。すみません。」
「いえ！ Aさん、謝らないでください！元はと言えば私が不慣れだったので…。」
彼は日記を入れた袋に水筒を入れて、玄関へ向かう。折角なので下まで送る事にした。エレベーターの中で、ふと思ったことを口に出してみる。
「草薙さん、いつでも連絡してくれて大丈夫ですからね」
「…え゛ぇ！？」
エレベーターが大きく揺れる。そんなに驚くようなことだろうか…しかし、彼は女慣れしていないのだ…と、自己完結をする。
「別に変な意味は無いですよ。ただ、友達ってそういうものかなって思うんです。」
友達と言ってしまったが、彼は私をどう思っているのだろうか。1階に着いた音が鳴った。無言のまま2人でロビーを出る。
「…友達」
彼はマンションの前で少し止まって言葉を零した。
「はい、友達です。私は草薙さんのことをそう思ってます。草薙さんはどうですか？」
いきなり踏み込んだ質問をしてしまったかもしれない。太陽を雲が隠すと共に、風が鼻をかすめた。
「……私は、友達…というものがよく分かりません。…ただ、沢山話したり色々なことを共に経験するのが友達であるのなら、私にとってAさんは、と、友達なのだと思います。」
大人になって初めての友達が出来た。
「なら良かったです。また友達らしく遊びましょう！」
「…はい！」
草薙さんが優しく笑う。初めて見る笑顔に、私は凄く綺麗だと思った。永遠に見とれていたい気もするが、時間は永遠ではない。
「長話しちゃいましたが、時間大丈夫ですか？」
「…あ゛！！！急げば間に合うと思います！では、また今度！」
彼は夕暮れに照らされた道を走っていく。道を覚えているか不安だが、きっと彼は間違えたりなんてしないだろう。また話せる日が楽しみだ。