【仮住】明日もここで (ページ5)

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5 連絡先ページ5

草薙さんにリビングのソファに座ってもらい、私はお茶と水筒を用意する。
「草薙さん、これ水筒です。一応洗いはしたんですけど…あと良かったらお茶どうぞ。」
キッチンから戻ると、草薙さんはソワソワした様子で部屋を見渡していた。声をかけると同時に、草薙さんの肩が大きく揺れる。
「は、はい！あ、ありがとうございます…」
最初の大きな声は、最後の方に行くにつれて、しぼんでいく。少しカクついた動きでお茶を飲む彼は、つくづく女慣れしていないんだろう。イジりたくなるが、デリケートな話題なのでグッと堪える。ふと、やりたいことがあったのを思い出した。
「草薙さん」
「はい！」
彼の礼儀正しい返事が、食い気味にされる。
「もしもの時のために、連絡先を交換しませんか？」
ﾌﾞｰｰｰｯ!!! 彼の口からお茶が吹かれる。
「ｹﾞｯﾎ、ｺﾞｯﾎ、…」
「く、草薙さん！？大丈夫ですか！？」
何か地雷を踏んでしまったか…！？彼を落ち着かせなければ…。背をさするべきかと思い、近づくと一定の距離を保つかのように彼も離れる。
「草薙さん…？」
「…れ、連絡先ですか…？そんな、わ、私達まだ手も繋いだことないのに！！！」
「はい…？」
「うわあぁぁぁ！！！何を言っているんだ理解！！！」
「えっ？」
彼は顔を真っ赤にさせてアタフタと忙しなく動いている。彼の中で連絡先の交換や手を繋ぐことは不純なのだろうか…？
「て、手を繋ぐなんて…なんてことを……連絡先!? そんな、まさか…」

数分程何かを呟いた後、草薙さんは気を取り直したかのようにこちらを向いた。深呼吸をしてから、ゆっくりと話し出す。
「Aさんは、問題ないのですか…？私と連絡先交換して…」
いつもより小さい声は気を抜けば聴き逃してしまいそうだ。
「はい。いつでも連絡は取れた方が便利ですし…というか、私から持ち掛けたんですよ！問題がある訳ないじゃないですか！」
彼は盲点だったかのように「た、確かに…」と頬を掻きながら呟いた。彼にとって、不純とはどこからなのだろうか…。
────────
草薙さんはトークアプリをあまり使わないのだろうか。電話番号の交換はすぐに出来たのだが、現在進行形でトークアプリに手こずっている。完璧人間のような彼にも苦手なことがあるのだと思うと、人間味を感じて微笑ましく思える。
説明を挟みながら何とかトークアプリも使えるようになった彼は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようだった。