【仮住】明日もここで (ページ1)

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セミの鳴き声で夏の暑さが強調される。日傘で太陽の光を受け止めながら、いつもの公園へと向かう。着いた先でベンチへ目線をやると、見慣れた白髪が落ちかけた太陽に照らされて輝いていた。
彼は草薙理解さん。この間、熱中症になりかけている所を助けてから、こうして度々会うようになったのだ。最初は、横に座ることすらままならなかったが、今では何とか横で話せるようになった。
そう遠くない過去に思いを馳せながら、彼にゆっくりと近づく。脅かしてやろうと思ったのだが、私が辿り着くより先にこちらに気が付いてしまったようだ。勢いよく振り返った赤い瞳と視線が交わる。彼は相当女慣れしていないようで、一気に顔が赤くなる。
「……こ、こんにちは、Aさん…」
なんとか絞り出したような挨拶はだんだん小さくなっていく。そんな彼が何となく可愛らしく思えて笑みが零れる。笑われたのが嫌だったのか、少々ムッとしてしまったので慌てて挨拶を返す。
「草薙さん、こんにちは。今日は元気ですか？」
英文テンプレートみたいな挨拶になってしまったが、意外と彼には良かったらしい。気を持ち直したように姿勢を正す。
「はい！今日はこの間の反省を活かしてしっかりと水筒を持ってきたんですよ！そのお陰で今日の強い日差しも耐えることが出来まして…」
彼が楽しそうに話す姿は、いつまでも見ていられる気がする。最初は呆気にとられたが、今ではもう楽しみの一つだ。
「そういえば、水分補給にはスポーツドリンクが良いと言いますが、実はノンカフェイン飲料も…」
見つめながら時々相打ちを打っていると、彼はハッとしたように
「すみません、また私だけが話しすぎてしまいました…。」
項垂れる彼はシュン、という効果音が良く似合う。
「いいんですよ。私、草薙さんが楽しそうにお話する姿、結構好きですから。」

「…す、すすす、好き！？えぇ！？え、え、Aさんが！？私の事、好き！？えぇ！？」
何気ない一言だったと思うのだが、女慣れしていない彼にはそんなことは無かったらしい。1拍おいてから、一気に顔が赤くなる。かなり動揺しているのが見て取れた。
「ふ、ふ、ふしだらな！！す、すみません、理解、一旦帰ります！」
そう言い、彼はどこかへ走って行った。彼があまりにも照れていたからか、こちらも恥ずかしくなってくる。この顔の熱は、夏のせいだといいのだが…。