露天風呂1 ページ22
昴の車は、雑木林の中の駐車場に停車した。
「ここに車を停めて少し歩きますよ」
「この山道の先に温泉があるの?」
「ええ。なんでも旅人が足をケガした際に、ここの湯につかったら痛みが引いた…という逸話もあるらしいですよ。
あなたも私も今回ケガをしましたし、ゆっくりつかっていきませんか?」
「露天風呂?」
「そうみたいです。けど、混浴じゃないのでご安心を」
「それは良かった…。あ! でも昴さん…変装…どうするの?」
いつもは夜遅くに入浴して変装を解いている。
今はまだ真っ昼間だ。
「向こうで他に人がいるようだったら、トイレで変装を解きますから。
その辺は上手くやります」
昴はニッコリと微笑んだ。
緩やかな上り坂を二人でゆっくり歩いていく。
「野鳥の声が聞こえますね」
「うん。あれはメジロのさえずりね」
「りお、詳しいですね。あ…カッコウが鳴いています。
これくらいなら私も知っていますよ」
「カッコウは鳴くだけで、自己紹介しているようなものですものね」
クスクス二人で笑い合った。
ほかにもエナガ、ヤマガラなど、いくつかりおに教えてもらった。
こんなことでも無ければ、りおが鳥の名前に詳しいなんて知らなかっただろう。
「小学校の担任の先生が野鳥好きだったの。
授業そっちのけで良く散歩に連れて行ってくれる先生でね。その時にいろいろ教わったの」
カサカサと枯れ葉を踏みながら、懐かしそうに言った。
「どんなに小さくても一生懸命生きている。
だから鳥も、草花も、命あるものは皆大事にしなければいけない。
そう教えてくれた先生だったわ」
「なるほど。りおが優しい理由が分かった気がします」
初めて聞くりおの子どもの頃の話。おそらく誰も知らない小さな昔話。
自分だけに話してくれることが嬉しかった。
「私、優しくなんかないですよ。特に今回は、昴さんにもずいぶん心配かけましたしね」
「そういえばそうでした。前言撤回ですね。
強盗には吹っ掛けるし、病院は抜け出すし、暴行動画を撮ると言い出すし…。
あなたの心配をするだけで寿命が縮まるかと思いました」
ニヤリと悪い笑顔を向ける。
「ははは…ごめんね…」
りおは肩をすくめて謝った。
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作者名:aki | 作成日時:2020年1月3日 13時