苦しい胸の内1 ページ5
藤枝が部屋を出てしばらくして、安室はさくらの肩を抱いた。
さくらが泣いている事に気付いていたから…。
二人で助かる方法なんて無いに等しい。
エンジェルダストにエミリーの病気を治す効果は無いのだから。
せめて二人が穏やかに最期の時間を過ごせたら…そんな思いから出た言葉だった。
藤枝に嘘をついた。
その罪の大きさにさくらは震えた。涙が溢れてくる。
またしてもNOCであるが故に、この感情にフタをして何事もないフリをしなければならない。
ただただ苦しかった。
安室もその苦しさを理解し、さくらを抱きしめた。
「僕も同じ罪を背負うから。気が済むまで泣いて良いですよ」
安室は泣き続けるさくらの背中をさする。
やがて涙は落ち着いたものの、さくらは酷く落ち込んでいた。
安室はさくらをベッドに座らせ、バスルームに行き濡れたタオルを用意した。
「たくさん泣いて目が腫れています。少し冷やしましょう。横になって」
さくらをベッドに寝かせ、目元に濡れたタオルを置いた。
「喉の調子も良くないですし、少し眠って良いですよ」
そう声をかけてさくらの体に毛布をかけた。
泣き疲れたのか、緊張の糸が途切れたせいか、子どものようにさくらは眠りに落ちた。
何度かタオルを変え目元を冷やす。
だいぶ腫れは引いたものの、まだ目元が赤い。
容易に泣いたことが分かる状態だった。
ジンからは先ほどホテルを出て帰宅して良いと連絡が来ている。
だがこの状態でさくらをあの男の元へ返すのは気が引けた。
「今晩一晩だけ…そばに居させてくれ」
安室はさくらの顔を見つめ、小さく呟いた。
しばらくしてさくらが目を覚ます。
目元のタオルをずらし周りの状況を確認すると、安室がベッドサイドのスツールに腰かけ、ベッドに突っ伏した状態で眠っていた。
金の髪にそっと触れる。
起きる様子がなかったので頭を撫でた。
『僕も同じ罪を背負うから』
そう言ってくれた安室の優しさが嬉しかった。
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作者名:aki | 作成日時:2019年11月18日 13時