思い出の絵本2 ページ5
二人は病院エントランスに向かう。駐車場はエントランスを出ればすぐそこだ。
途中、小児科を通り過ぎた。
小さな子どもたちが母親や父親に連れられて順番を待っている。小児科の受付前には子どもが遊べるスペースがあり、おもちゃや絵本が広げられていた。
「わぁ、探偵団よりもっと小さな子がいるわ」
冷却シートをおでこに貼って、真っ赤な顔をしながら笑顔で遊んでいる子。
指を吸いながら母親にピッタリ甘えている子。
他の子が持っているおもちゃに興味津々な子。
小さな子どもたちを見て、さくらの顔も自然とほころぶ。賑やかな小児科エリアを通り過ぎながら、さくらは何気なく本棚へと目を向けた。
子どもの背丈に合わせた小さな本棚には、新作の絵本から往年の名作まで、所狭しと並べられている。
「ん?」
ふと見覚えのある背表紙をみつけて、さくらは歩みを止めた。
「さくら?」
昴も足を止め、さくらの方へ振り向いた。
「……」
昴の呼びかけにも答えず、さくらは本棚をジッと見つめている。近くではしゃぐ子どもたちの声が、次第に遠くなっていく。
やがてその声はずっとずっと昔——
本を抱きかかえた、幼い自分の声に変わった……
『パパ〜! もう一回読んで〜』
『えぇ〜…またかぁ? これで何度目だ?』
『だって、オオカミが可哀想なんだもん』
『何度読んでも結末は変わらんぞ?』
『え〜……あ、そうだ! それなら、パパがオオカミさん助けてあげて!』
『パパが? う〜ん…そうだなぁ…』
『……!』
『…』
「…ッ、うぅぅッ…」
突然さくらが頭を押さえた。フラフラと倒れかけたところで、昴が慌ててその肩を掴む。
「ッ! おい、どうした?」
「わ、わからな……頭が…頭が、痛…い…」
「顔が真っ青だぞ……さくら、ソファーに座ろう」
頭を押さえたまま崩れ落ちそうになるさくらを、昴は待合のソファーに座らせた。
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作者名:aki | 作成日時:2022年2月27日 12時