潜伏1 ページ34
同日、明け方。とある臨海都市——
賑やかな街の外れに、建設途中で工事がストップし、そのまま廃墟となってしまったビルがある。
周辺の都市開発もとん挫したその一帯は、近隣住民からも文字通り『ゴーストタウン』と呼ばれ、普段はあまり人が寄り付かない。
そんな廃屋の二階部分に、男が一人潜り込んでいた。
わずかな武器と銃弾、小さな懐中電灯、そしてタブレットが男の近くに置かれている。
ガランとした部屋は隙間風が吹き込み、ヒューヒューと風切り音が響いた。男はコンクリートが剥き出しになった壁に背を付けて座り、まるで死んでいるかのように動かない。
ピロン!
突然タブレットが着信を告げる。それに気付いた男——リュ・スンホは、気怠そうにそれを手に取ると来たばかりのメールを確認した。どうやら斥候部隊の仲間が物資を届けてくれるらしい。
特に返信することも無く、スンホはタブレットを置くと半分諦めたように天を仰いだ。
超大国アメリカを手中に収めるため、まずはこの日本を手に入れねばならなかった。日本国民を人質としてアメリカを黙らせ、ヨーロッパ諸国、果ては全世界に我が将軍様のお力を知らしめる。
そしてありとあらゆる国と地域を我らの属国とし、地球上の人間全てが将軍様の前にひざまずく——。
それこそが彼らの目指す理想の国だった。
『神の化身といわれる将軍様が、この世界を全て浄化し、理想国家を創り上げる——我々はその礎を築くために生まれて来たのだ』と幼い時から教育されてきた。将軍様の為に誇り高く死ぬ。それこそが選ばれし戦士の役目なのだ、と。
それがどうだ。アメリカどころか日本を掌握することも出来ず、挙句に足掛かりとなるはずだったアジトを破壊されてしまった。
(せっかくソジュン様に最後のチャンスを頂いたのに……)
スンホは力なくうなだれた。
あの時——ジンの言葉にのせられ、思わず自爆を思いとどまったことを後悔した。
「そんな情報……あるわけがない」
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作者名:aki | 作成日時:2022年2月27日 12時