仲間に迫る影5 ページ17
何の関係もない、大学の仲間が傷つけられるわけにはいかない。
しかし相手がいくらオドゥムの工作員であろうと、彼らも人間だ。組織の者によって傷つけられ命まで奪われる——。
自分の警察官としての立場と、信念と、それでもどうしようもない現実。
自分はいったい何のために戦っているのか。全てを見失いそうになる。
真っ暗闇に突き落とされるような、そんな恐怖がりおを襲った。
「お前の気持ちは痛いほどわかる。だが今は一般人の安全が最優先。
俺たちは俺たちの責任を果たす。それだけだ」
冷たいようだが、昴(赤井)なりの精一杯の言葉だった。
『正義』を貫くためには誰かの犠牲を容認しなければならない時もある。『全てを守る』など、キレイごとに過ぎない。時には優先順位を付け、場合によっては切り捨てる——。
いくつもの修羅場をくぐった者しか分からない、辛く悲しい現実だった。
「うん…そうだね……」
りおは目を閉じ、数回うなずいた。
「俺がそばにいる。それしか出来ないが……」
昴はりおの肩を抱き、頬を寄せた。
「あなたがそばに居るだけで……それだけで十分」
りおもまた昴に抱きつく。
二人は互いの体温を感じながら、いつまでも抱き合っていた。
***
「来たわ。ラスティーからの返信」
スマホを手にしたベルモットがジンに声をかける。
「チッ! 東都大学か……マズイな」
工作員の顔写真を確認したジンが舌打ちをした。
「アニキ、どうするんですかい?」
珍しく焦りを見せるジンに、ウォッカが心配そうに訊ねた。
「オドゥムの工作員は追い詰めるとすぐ自爆しやがる。
東都大でそんな事をされたら、またラムのヤツがうるせぇだろ。大学の外で銃弾一発ブチ込んで黙らせた方が早い」
ジンはスマホの画面に視線を落とし、メールアプリを起動させた。
「一人ずつだと逃げられる可能性がある。
コルンとキャンティに連絡して、三人一気にカタをつけさせる。
但し……ソレで掃討作戦がパァになるのも御免だ。内偵三人の暗殺は掃討作戦の直前。
リュ・スンホが『内偵死亡』の報告を受けるのは、あの世ってことだ」
なるほど、と表情を明るくしたウォッカを見て、ジンもニヤリと口角を上げた。
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作者名:aki | 作成日時:2022年2月27日 12時