事故〜炎上5 ページ11
20年前のあの日——
夜が明ける直前の峠道
ガソリンの匂い
炎が噴き出す父の車
そこに近づく自分——
「あ……あぁ…あ、ああ……」
「さくら? …ッ! さくら?! おい! お前…」
激しく燃える車を凝視し、ガタガタと震えるさくらの目からは、とめどなく涙が溢れている。
「だ、ダメだ! 見るなッ!」
昴は覆いかぶさるようにさくらを抱きしめた。
事故車が見えないように。
辛い記憶を思い出さないように。
「は…はぁはぁはぁ…はッ…ふ…はッ、く…」
(過呼吸発作が…! まずい…)
さくらは昴にしがみ付き、苦しそうに息をしていた。
どんなに昴が背中をさすっても、声をかけても、発作は治まる気配が無い。
相当苦しいのだろう。力のこもるさくらの指が、昴の背中に食い込む。しかしその痛みすら、昴は全く感じなかった。
「は…はぁはぁ…は、は、はぅ…ふ…ひぅ…」
「りお、慌てるな!…ゆっくり、ゆっくり息を吐け……頼む…ッ! りお…!」
何もできない自分が歯がゆくて、情けなくて、昴は懇願するように声をかけ続けた。
やがて過剰に取り込む空気がさくらの意識を刈り取る。
呼吸の音が小さく不規則になり、その動きも散漫になった。
「……冴…島のおじ…ちゃん……スウィー…トの…おじちゃ…ん……でたら…め…」
小さな声でさくらが何か言っている。
もう目は閉じたまま。うわごとのようにつぶやいた。
「りお?」
昴は自分の耳をさくらの口元に近付ける。
「ッ!…い、やだ……見たく…な…い……思い…出したく…な…」
苦しそうにつぶやいて、涙が頬を伝って落ちた。
記憶の扉が開こうとしている。
りおの心は、それを必死に閉じようとしていた。
「ッ!! くそッ!」
昴はさくらを抱きしめたまま吐き捨てるように叫んだ。
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aki(プロフ) - iwaさん» iwaさん、メッセージありがとうございます♪大好きって言ってくださる方がいるだけで、すっごく嬉しいです。前は一喜一憂してましたけど、今はただ、好きな小説を書いて、喜んでくださる方がいて、それだけで幸せです。ご期待に添えるよう、これからも精進します! (2022年4月22日 19時) (レス) id: 7b3007e7f7 (このIDを非表示/違反報告)
iwa(プロフ) - 初めまして。星が少ないようですが私は大好きです。色など気にせずに!楽しませていただいてます! (2022年4月22日 16時) (レス) @page50 id: 6d6a6077d0 (このIDを非表示/違反報告)
aki(プロフ) - はちみつさん» あけましておめでとうございます♪︎はちみつさん、お久しぶりです〜!コメント嬉しいです〜〜!今年もただのラブではない、唯一無二の二人を書いていきますよ〜。よろしくお願いします♪︎ (2022年1月1日 14時) (レス) id: 7b3007e7f7 (このIDを非表示/違反報告)
はちみつ(プロフ) - こんにちは!そして、あけましておめでとうございます!毎日楽しく読ませていただいています!夢主ちゃんと赤井さんの信頼関係がたまりません…!今年もよろしくお願いします! (2022年1月1日 13時) (レス) @page43 id: 47bbcb1aa7 (このIDを非表示/違反報告)
aki(プロフ) - あんなさん» あんなさん、ありがとうございます♪最近は閲覧数も減っているのでコメント頂けると本当に嬉しいです〜!長いお話で読むの大変ですよね。でもちゃんと最後まで形にしますので、もうしばらくお付き合いくださいね。良い年をお迎えください。 (2021年12月31日 19時) (レス) id: 7b3007e7f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aki | 作成日時:2021年11月20日 12時