ペリドットとアンバーvol.2【名探偵コナン】【赤井秀一】【安室透】

失われた声１ ページ23

　どれくらい時間が過ぎただろう。
一瞬顔を歪ませたものの、さくらがゆっくり目を開けた。
「さくら…」
赤井がささやくように名を呼ぶ。
『秀一さん』
そう口は動いていたが、声は出なかった。
さくらは手を伸ばすと赤井の頬に触れる。
表情は穏やかだ。
赤井はその手に自分の手を重ねた。
「どこか痛いところはないか？」
『大丈夫』
口の動きだけだが痛みがないことを教えてくれた。



『私どうしたの？また倒れたの？』
声が出ないので口の動きから読み取る。
どうやら発作を起こしたことを覚えていないようだ。
赤井は新出に一報入れることにした。
飲み物を持ってくると言って客室を出た。

　キッチンでカフェオレを作りながら新出医院に電話をする。
チョーカーだけ付け、声を昴にした。

　「新出先生ですか？さくらのことでお聞きしたいことが…。
先ほど目を覚ましたのですが、どうやら発作の前のことを覚えていないようなのです。
どのあたりから抜けているのか探ろうと思ったのですが、声が出ないようで…」
いくつか気になる症状を伝える。
すると「今から伺ってもいですか？」と新出が訊ねた。
赤井は「お願いします」と言って電話を切った。

　カフェオレを客室に持っていき、さくらに今から先生が来ることを伝える。
変装してくると言うと小さく頷き、さくらはカフェオレを手にとった。




　昴の姿になってしばらくすると呼び鈴が鳴った。
先生とは筆談をしながら診察をし、状況を整理していく。
診察後リビングで先生と話した。

　「安室くんが乱入してきた辺りから記憶は曖昧なようです。
安室くんに会ったような、会わないような、そんな感じでした。
あと、やはり精神的なショックは大きかったようで…。
声が出ないのはおそらく『失声症』ですね。心因的なストレスで発症することが
多いです」
「いつ声が出るようになりますか？」
「分かりません。直ぐかも知れないし、１年後かもしれません」
昴の問いかけに、新出の声は暗く沈んだ。

　「大きな発作を起こしたばかりですし、声も出ませんからPTSDの治療はしばらく中止ですね。
この間に少しでも体を休ませたほうが良いでしょう」
新出先生は終始苦しい表情をしたままだった。

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