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初めて持つそれに手が震えた。
(こんなに小せえのに、人を…)
ベルトに銃を繋ぐ金具を取り付け、腰の横に備える。
いつもならあっけらかんとしている松田も、少しだけ顔が強張っていた。
小走りで射撃場に向かい、荷物を置いてすぐに整列する。
教官が着いた時には皆喋ることなく真っすぐ前を見つめている。
最初は異様な行動だと思っていたはずが、いつの間にかそれが日常となっていた。
「今日から訓練を始める。まず構え方だ」
共感を取り囲むようにしてクラスメートは並ぶ。
その中にAや松田も居て、真剣な顔で前を見ていた。
「構え方どうすると思う?
じゃあ…萩原!」
こういう時に呼び出されるのは、お調子者扱いされる自分だ。
肩を落としながら前に出、教官にぽんと肩を叩かれる。
「実際の拳銃はまだ出さなくていい。手でこうやって形を作って見せてみろ」
そう言って、親指と人差し指を嬉しそうに立てた。
少し考えて出てきたポーズは、
「ふふ」
「くくく…」
片腕をぴんと伸ばし、もう片方の手は腰に手を当てた状態。
教官は容赦なく頭をはたき、
「馬鹿か。そんな映画に出てくるポーズをやるわけねえだろうが。戻れ」
期待した通りの解答が来たとばかりに嬉しそうに歯を見せた。
そこでまた別の生徒が呼ばれる。
それが優秀な降谷という男だ。
教官の前に立たせ、教官は彼の腕を掴んで姿勢をして見せた。
それを見よう見真似で皆身体を動かしている。
説明をされた後、今度は台の前に立つ。
奥にはいくつかの的が見えた。
「標的は一つのもの、二つのもの、数が違うと思うんだが、
特徴的な名前があってなあ、何だと思う?
ヒントは遊びだ」
知らないだろうと言わんばかりに教官は胸を張った。
(誰も知らねえだろ…何偉そうにしてんだ)
そう愚痴りたくなるのを押さえ、教官が答えを言うのを待とうとした時、
「…麻雀」
後ろの方でぼそりと呟く声がした。
彼はそれを聞き逃さず、声の主に声をかけた。
「麻雀…だと思います。牌の模様ととても似ているので…
一ならイー、二ならアー…じゃないでしょうか」
(そういや、Aちゃんの父さん、麻雀好きだったな。
小さい頃子供用ので遊んだっけ)
不安そうに言うAに教官は一瞬目を丸くした後、その目が弧を描く。
少しだけ周りがどよめいて、Aが照れくさそうにしているのを見て、また松田は不服そうに彼女を見ていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時