5.university ページ5
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「陣平ちゃん、俺も警察官になろうと思う！！」
突然、親友はそう言い始めた。
あまりの唐突さに気が狂ったのではないかと少し不安になった。
萩原の実家の工場は廃業した。
それをきっかけに萩原家の様子は一変し、松田も気を遣ってあまり顔を出さないようにしていた。
大学進学とともにますます彼との付き合いは減っていき、久しぶりに会った飲みの場で彼は目をきらきらとさせながら話し始めた。
「姉貴が神奈川で警察官になってさあ」
「どんどん知らねえ話が出てくるな」
「やっぱ公務員はいいよなあーよっぽどのことがない限りクビにはならねえしぜってえなくならねえ！」
どんと勢いよくビールジョッキを置いて、萩原は意気揚々と言う。
(おいおい、工場継ぐって話はどこ行ったんだよ…)
実家が危機に陥った時、やはり萩原も気落ちしていた。
それどころかいつか立て直すんだ、そう話していたような気がする。
それが今では国家の犬になろうとしている。
「そいや、陣平ちゃんもなろうとしてんだって？」
少し酔った顔で彼は楽しそうに言った。
自分自身は萩原のように前向きな理由で志しているわけではない。
そう思うと、あまり公に言いたくはなかった。
それを察したのか、
「ま、どんな理由であれ、陣平ちゃんと同じ道を進めるのは嬉しいよ。
一緒に頑張ろうぜ！」
彼はジョッキを目の前に突き出して、置いてある松田のジョッキにこつんと当てた。
嬉しそうに笑う萩原を真っすぐ見ることができず、思わず目を逸らした。
互いの近況報告をし終わった後、ふと萩原は口にした。
「俺、Aちゃんがちょっと羨ましかったんだよね」
「…久しぶりに聞いた名前だな」
「警察官になるって話したから、つい思い出して」
顔がぼんやりとしか思い出せないものの、よく萩原家を出入りしていたクラスメートということだけは記憶にある。
そういえば、彼女の父親は警察官だという話を過去に萩原に聞いていた。
「父親の背中追いかけて、警察官目指して勉強したり、だけどちゃんと部活を通して青春したり。
俺には一つのことにしか集中できないから、自分のことだけじゃなくて俺達家族のことも気にしてくれるAちゃんの存在がすげえ有難かったんだよね」
そう言われ、保存容器を持って萩原家に訪れるAの顔がなんとなく思い起こされてきた。
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作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
