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弟の親友という彼は自分目的で来ている部分もあるということも知っていた。
「あっ千速さん、こんばんは」
「A、今帰りか?今日も助かるな」
「いえ。父が心配してたので…まあ私もですけど」
彼女は少し気まずそうに頭を下げた後、自宅に帰ろうと足を踏み出す。
「待て。ちょっと時間いいか」
「は、はい。構いませんけど…」
急に呼び止められ、幼馴染の彼女は不思議そうな顔を浮かべた。
近くの公園に着き、二人並んでベンチに座る。
「…AやAの親父さんが知っての通り、うちはもう先はないだろうな」
突然の身の上話に彼女は目を丸くした。
少しだけ身体を硬直させた後、俯いて手持ち無沙汰になった両手を絡め始めた。
「その時はあの陣平…という少年と、君が、研二を支えてやってくれないか」
突然の依頼にしては重すぎる内容だとは思う。
ただこうして毎日のように萩原家に訪れるこの二人の少年少女は、弟にとって家族同様に否家族以上に信頼できる人間だと感じていた。
千速の言葉にAは首を捻り、動いていた手を止める。
「私はただのご飯を届ける人だからなあ…。
研二には松田がいるから大丈夫ですよ」
そして、少しだけ苦しそうに笑った。
恋仲でないことは知っているものの、やはり小さい頃からの付き合いだ。
辛い未来が待っている幼馴染の姿を見たいと思う奴は誰一人としていないだろう。
Aは少し何か考えた後、不意に声を上げた。
「研二も警察官になればいいんじゃないですかね」
彼女の父親は警察官だ。
それに影響されAも志していることを聞いたが、それを研二に勧めることは想定外だった。
「人とのコミュニケーションをとるのも上手いし、観察力もあると思うし。
そういうとこ向いてると思うって、父さんが。
研二君ならぜひうちに来てほしいって言ってましたよ。
とはいえコネなんてほとんどないので、結局は研二に頑張ってもらう必要がありますけどね」
Aはそう言って眉を下げる。
「…私なんかの提案で靡くような人じゃないだろうし、
おじさんの工場を何が何でも継ぎたいっていう未来が見えるから、強くは勧めないです。
…もし、よかったら、千速さんの方から何か言ってあげてみてください」
普段控えめに研二達を見ているAの優しさに触れたような気がしていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時