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ばたばたと音を立てて、女は玄関の方へと行き、
「明日も早いから」
「ったく。相変わらず真面目なやつ」
「松田も出勤でしょ。じゃ、おやすみ」
「へえへえ、おやすみー」
すぐに姿を消していた。
(別にうちから行っても構わねえだろ)
互いにいい大人だ。
あわよくばを期待した自分が馬鹿みたいだ。
少し前までは、あんな女なんて、と思っていたはずなのに。
「…」
元居た場所に戻ると、机の上の置かれていた缶や菓子の袋は消えている。
物を出しっぱなしにしているはずの机はいつもより綺麗だ。
(立つ鳥後を濁さず、か)
胸が少しだけ締め付けられた。
ただAがちゃんとした人間で、片付けをしてくれていただけ。
そうとは分かっていても、Aと飲んでいた時間が夢のような気もしてくる。
自分の意思と裏腹に淡々と生きている女にむかついて、中身を見ず煙草を咥え火をつけ、
「げっほげほ………」
思わずせき込んで、
「まじぃ」
嫌いな味と匂いを感じながら一本吸いきって。
「はあ…」
(なんで、こういう風にさせやがったんだ…)
重い溜息とともに脳裏に浮かぶのは、松田の煙草を要求する楽しそうに笑う女の顔。
それがむかついて、腹だたしくて、苛ついて。
でも、どこか嬉しくて。
いつかAは言った。
松田に勝ってやる、と。
警察官に必要なスキルの面で、きっとそれは彼女にとって敵わない要素だ。
その部分だけでいえば、松田はAに勝っている。
だが、その勝った相手が惚れているとなれば、どうだろうか。
「…まだ負けてたまるかよ」
冷たい床に寝ころんで、熱くなってきた頬を冷ますように手を押し当てた。
Aが煙草の火に遊ばれているのを利用して、喉から出かかった感情を抑えたことが今になって後悔に駆られていく。
恋人もいない女が一人暮らしの男の家に遊びに来る。
それだけで想像できる考えは一つだ。
松田もそれは予見していたはずなのに、実行できなかったことを、
(お前の幼馴染、ほんと厄介)
かつてからの親友のせいにした。
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作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
