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暇だから吸う。
喫煙し続けて貯蓄されてきたニコチンが切れて、苛苛して吸う。
そんな理由が喫煙者にとって当たり前のはずで。
今の状況が気まずくて、逃げたくて、外に出るために喫煙に走る。
その状況は今までのAにとっては初めての経験だった。
そんな経験を松田がさせていることにでさえも、意識してしまう。
(彼氏なんかいたらここにいるわけないでしょ)
意図しない彼の言葉にどきりとさせられた。
自由奔放の彼だ。
何を思ってそう言ったのか分からないし、常識的に考えてそのような考えに誰でもが陥るのも理解ができる。
だが、もしかしたら、という別の理由があるのではないかと、期待してしまう。
身勝手な解釈だ。
「ありがと」
松田から受け取った煙草は苦い割に後口は爽やかだ。
(松田っぽいとは思うけど、私には合わないなあ)
合ったらいいのに、と思ってしまう自分がいた。
そのまま何気なく互いの好みの煙草を口にする。
彼の方からはいつも嗅ぐ匂いがして、また心臓の音が早くなる。
「じゃ、貰うわ」
「ちょっと」
松田は何も聞くことなく、Aの箱の半分くらいの量を自分の箱に入れる。
そして、同じぐらいの量を自分の煙草をAの箱に詰め直す。
「たまには気分転換もいいだろ」
そう言って松田はにやにやと笑みを浮かべた。
どうやら過去にAが彼の煙草の味が口に合わなかったことを覚えていたらしい。
「気分転換？嫌がらせじゃん」
そう皮肉めいたことを言いながらも、どきどきと心臓の音は早まっていくばかり。
嬉しくてたまらない。
まるで忘れていた青春を取り戻すかのように、顔に熱が昇っていく。
「A」
唐突に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
不覚にも煙草の灰を手の甲に落とし、
「えっ何？熱っ」
慌てていると、
「あぶねーだろ。ドジ。
…ま、いっか」
彼はまた煙を吐いて、視線を逸らして別の方向をまっすぐ見つめていた。
(もうっ私がちゃんと聞いてれば)
彼が何か大事なことを言おうとしたのではないか。
それを取り逃した気がして悔しさに駆られる。
もう少し残った煙草を揉み消して、一人先に部屋に入る。
座り込んで酒を飲みながら、携帯電話に触れて、
『この前の仲いいかの質問だけど、
やっぱりそうでもないよ』
そう親友に文章を送っていた。
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作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
