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新たに上司となる男の運転で配属される警察署に向かう。
運転席には同じく配属される仲間、隣には松田がいた。
彼は外を見つめながら、時折うたた寝している。
(怒られるぞー)
そう思いながらも真っすぐ見つめながら、運転席の上司の話に集中する。
彼は気さくで明るい。
父親と変わらないくらいの年だろうか。
「今からいろんなことに挑戦できるんだろう。いいなあ」
のんびりと言いながら、にこにこと笑みを浮かべる。
ふと松田の態度に気が付いて、
「お、なかなかに肝が据わった子もいるようだ」
彼は楽しそうに笑った。
それに気が付いて松田は目を覚まし、不服そうな顔を浮かべた。
そんな姿を見ていられず、ちらりと外を見る。
ちょうど母校の近くだった。
「Aさんは、お父さんがここにいるんだってなあ。
ちょうど僕の五個下の後輩でねえ」
どの上司も同じだった。
「入った時から優秀でねえ。
学校にいた時は総代だったと聞いたよ」
彼らは皆才色兼備の父を褒める。
自分の憧れの姿であり、尊敬できる人間だ。
しかし、この世界に入ってからはAにとって苦しい存在で。
(悪気はないんだろうけど…勝手に期待されてるみたいで…
私は普通の･･･いや、下から数えた方がいいくらいなのに)
膝の上に置いた手に自然と力が入る。
ミラー越しに上司と目が合っても、不自然な愛想笑いしかできないだろう。
ぎゅっとシートベルトの下の方を握りしめて、前を見ないよう俯いた。
ふと視線を感じる。
上司の話半分にその視線の方を向けば、
『前向け』
松田の口がそう形作った。
その表情はいつもよりも堅い。
ぱっと視線を戻し、前方の席の頭部分をまっすぐ見つめる。
上司は変わらず楽しそうに父について話している。
いかに父は凄い人で、刑事課の星だったのか。
滲みそうになる涙を堪え、ぎゅっと手の力を込める。
ふと胸元の携帯電話が震える。
そのタイミングで目的地に到着し、慌てて車から降りた。
「まずは署長に挨拶するから、先にトイレ行ってきな」
そう言われ用を足しに向かい、手を洗って震えた携帯電話を開く。
『父親より、まずはAだ。
気にすんな。
上の奴らはお前のことちゃんと見れてないだけ。
俺は見てた』
最後の一文で、一気に熱が身体を昇って行った。
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作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
