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配属先を見て卒倒しそうになった。
なるべく彼を意識しないようにすることで精一杯で、やり過ごすことばかりを考えていた。
(もう明日には現場の人間か)
半年しかないとはいえ、思い出が詰まりすぎた部屋が片付いているのを見て鼻の奥がつんとなった。
「Aとばらばらになっちゃったね」
片づけを終え、ルームメイトはベッドサイドに腰かけてそう言った。
永遠の別れというわけでもないが、毎日顔を合わせて切磋琢磨したきて仲間と離れるのは寂しい。
勉強の話、体術の話、過去の話、人間関係の話。
本当にいろいろな話と経験を通して彼女とは唯一無二のパートナーといえるほどの仲だった。
「Aはどうなの?」
「ん?」
「松田君だよ。
好きなんでしょ?よかったじゃん、一緒で」
彼女が色恋の話を振ったのは初めてだ。
突然のことに反応できず、身体が硬直する。
「二人が競い合いながら自分の方がってやってるの、いいなって思ってたよ。
まあ、周りの皆はまたやってるって感じだったと思うけどさ。
やっぱ競争心って大事だし」
恋愛感情というよりも、女は冷静に自分達の状況を分析しぺらぺらと話す。
それだけで恥ずかしくなって畳んだ布団に顔を埋めた。
「アルバム、ちゃんと見てね。私、選りすぐりのやつ選んだからさ」
「えっ、何を」
「内緒」
彼女はにやにやと笑みを浮かべて、器用に片目を閉じた。
消灯時間になり、ベッドに横になる。
いつもなら疲れ切って眠ってしまうはずが、今日は目が冴えたままだ。
(ここにくるのは、またもう少し経った後か)
半年という長い期間ではないものの、仲間達とはまた会える。
それは分かっているのにどうしても胸が締め付けられる感覚がして。
「A。休み被ったらご飯行こうね」
「…うん」
察しのいい彼女はAにそう言って、
「おやすみ」
夢の中へと落ちていく。
促されるようにしてAを目を閉じる。
体力的に、精神的にきつい場面は沢山あった。
一般人からすれば逃げ出したくなるくらいあり得ない世界だとも思う。
しかし、不思議と今は楽しかったと感じることばかりで。
それもきっと隣にいる彼女や幼馴染の萩原、そして、
(まさかこんなに関係が深くなるなんて思わなかったよね)
高校生の時からの知り合い、松田。
ただの顔見知り。
ずっとそうなのだと、いつかは忘れてしまうのだと、再会するまではそう思っていた。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時