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「おじさん、調子はどう?」
「おーA、よく来たなあ」
「これ、今日のご飯。
父さんがおじさんのこと心配してたから、そろそろ連絡返してあげてよ」
萩原の父は困ったように笑った。
父から萩原家の工場の経営があまりうまく行っていないことは聞いていた。
とはいえ、Aの家にはファミリカーが一台と父の仕事用の車が一台。
家が近いからと二台の車を定期的に萩原の父に見て貰うことで、故障せず長く維持している。
萩原家としては故障してそれを修理するのが大きな収入になるはずだが、A達家族ではそれを手助けしてあげることはできなかった。
それどころか、友人価格だからと金額を下げようとしてくる。
毎回父が怒って正当な金額を支払おうとしていたが、彼はそれを受け入れようとしてはくれなかった。
「まだ夕飯食べないから、中入って置いてきてくれるか」
「…分かったあ」
そう言って、彼は倉庫の奥に消えていく。
Aの父の話を聞くつもりはないのだろう。
(また父さんが不安がるだろうな)
溜息を一つつき、慣れた手つきで扉を開け挨拶も無しに家の中へ。
言われた通りリビングの机に持ってきた料理を置いて、静かに出ていこうとした時、
「お、いらっしゃい。今日もありがとね」
偶然自室から廊下に出てくる萩原と鉢合わせた。
彼はちらりと玄関の方を見た後、父と似た困った顔でこちらを見る。
「父さん、ほんとは分かってんだよ。
もう厳しいってのは」
寂しそうにそう言い、萩原は無理矢理笑顔を繕った。
(研二は継ぎたいって聞いてたんだけどな)
幼い頃からの付き合いだ。
萩原だけのことだけではない、この家族のことが父同様Aも心配だった。
とはいえ、経営は続けられそうなのかといった込み入った話をできるほどAは器用ではない。
「ハギー、ペンチ貸してくんねー?」
重い空気を壊すように、どんと扉が開いて松田が現れる。
手元には分解されたラジコンが一つ。
「あー…と、ペンチなら倉庫にあるはずだから、親父に聞いてくれ」
「そか、了解ー」
彼はAをちらりと見た後、だるそうな足取りで外へと出ていく。
それに影響されるように、
「…じゃ、私帰るよ。またね。おじさんによろしく」
「ああ。また明日」
少しだけ暗い空気のまま、幼馴染の家を後にした。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時