20 ページ20
.
「A。ちょっと」
不意にルームメイトに呼ばれ、情報処理室に入る。
そこには萩原と降谷がいた。
彼らはAを見て、それぞれらしい反応を見せた。
「Aちゃんも来たんだ！」
「萩原は勝手にここに来ただけだろ」
二人の会話にルームメイトは困った顔を浮かべた。
(なるほどねー…ここが取り合ってるっていう)
状況は何となく察してはいたものの、どうやら幼馴染の方が不利らしいということは伝わってきた。
わざとらしく降谷と彼女の間に入り、
「んで、アルバムの用写真選ぶんだっけ」
少しだけ幼馴染の加勢に入る。
萩原をちらりと見ると、少しだけ意外そうな顔をした後目が弧を描いた。
本題に入ると、写真部の彼女はすぐにパソコンの画面と向き直った。
「男目線でいいなと思うのはこの二人に選んでもらったんだけど、
女目線代表でAに見て貰おうと思って」
「ええ…大役じゃん。
別にカメラが趣味とかいうわけじゃないしセンスあるわけじゃ」
「センスとかじゃなくて、私はAを信頼してるから頼んでるんだよ」
いつも彼女は平気でそういう風に言う。
人たらしというべきか、何も考えていない無邪気さというか。
そういうとこが男女関係なく惹かれさせていくし、悪い気もしない。
きっと彼女も何気なくただ思っていることを吐いているだけなのだろうが、それが
「…」
「…」
この二人に刺さっていく。
Aに向けられた言葉とはいえ、誰が聞いても大胆な言葉だ。
純粋無垢な彼女を他所に固まる空気を変えたくて、咳を一つ。
わざとらしく深く椅子を引いて、画面の方に身体を乗り出す。
既に選ばれた写真はどれも良く、ピックアップしていく作業はぶれているかそうでないかという基準だけ。
選ぶ前後でそう大差ない。
ただ、
(…これ、好きだ)
無意識のうちに、降谷達四人が楽しそうに暴れている画像に目が留まる。
その中に特に歯を見せて無邪気に笑う男が一人。
「これいい写真だよね。俺も好き」
萩原は少し身を乗り出してきて目を細める。
降谷も横でうんうんと頷いている。
(きっと嫌いな世界なはずなのに、彼は大切な仲間ができたようでよかった)
ここにいる理由は分からない。
反抗的な態度をとる限り、恐らく良い感情でここにはきていない。
そんな中で、歯を見せている松田が輝いて見えて、
「うん。…好き」
どういう意味かも分からない、好きを吐いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
