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煙漂う箱の中に二人並んで、また煙を増やす。
(休日はやっぱり人が多いなあ)
恐らく買い物に付き合わされたであろう父親達が疲れた顔をして煙草を咥えている。
隣には松田がいるものの、なんとなくしんとした空気で会話する気にもならずただただ煙を吐くだけ。
会話がなかったとしても不思議と何か喋らなきゃという焦りもなく、ただ隣り合うだけあった。
不意に携帯電話が震えて、驚いて危うく煙草を落としかける。
ポケットからそれを取り出し画面を見れば、
『機動隊』
そう書いてあって、思わず松田を見た。
彼は表情ひとつ変えないまま、携帯電話を操作し続ける。
『爆弾解体とかで機械弄りできんだろ』
『お前は何で刑事?』
誰も喋らない空間が、より二人だけの会話であることを意識させる。
『父さんがなりたかった役割だから』
そう打って、ちらりと彼を見れば目を大きく開けていた。
それもそうだ。
父親は刑事課で数々の実績を残してきた警察官の一人だったからだ。
『どういう意味だよ。Aの親父は刑事だろうが』
初めてAを呼ばれ、胸が少しだけ跳ねた。
それを誤魔化すようにして、操作する指の動きを早める。
『正しくは、だった、だよ。
今は管理する側に回っちゃってるから、現場の人間じゃないんだよ』
『へえ。偉くなると大変だね。
教官達がお前の父親の話出すこと多いから、てっきり現職なのかと思ってたわ』
『教官達よりも上の世代だからね。
教官達からしたら、憧れの先輩ってとこだと思うよ。
現役時はそれはそれは名刑事だったみたいだから。
それを評価されて、育てる側に回されたんだろうけどね』
どうしてメールであればこんなに彼と話せるのだろうか。
そう思いながら、隣の男にメッセージを送り続ける。
彼も対抗するように返してきてラリーは続く。
いつの間にか互いの口には煙草なんてなくて。
『やべ。後少しで戻んねえと』
『ほんとだ。出よっか』
同じタイミングで携帯電話をポケットに入れ、重い腰を上げる。
一歩先に行く松田の背中を見て、
(もう終わりか)
と思ってしまった自分がいて、
「忘れ物ないでしょうね?」
「お前は俺の母親か」
無駄に彼に突っかかって、自分の感情に気づかないふりをした。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時