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ふと空き教室で自習しているAの姿を見つける。
(休みだってのに、真面目なこと)
茶化してやろうと、勢いよく扉を開けるより前に、
「まだいたのか」
「お疲れ様ですっ」
教官が部屋の前に立ちAに声をかけた。
思わず身を隠し、様子を伺う。
椅子を勢いよく引き、女は上司を真っすぐに見つめる。
それを見て男は面倒臭そうに座るよう促した。
Aは渋々座り直し、また見上げて彼を見る。
「本当は厳しくしないといけないことは分かっているんだが、
最近のお前は少し変だ。もう少しペースを落としたほうがいい。
自滅するぞ」
最後の強めの言葉に、Aの肩はぴくりと動いた。
小さく唇を噛んだ後、
「…父は教官の先輩だと思いますが、教官にとってどんな上司だったんですか」
自分の親のことについて尋ねた。
その問いに教官の眉間に皺が寄り、大きく溜息をついた。
「お前の父親を引き合いに出すのはAに火をつけるためなのにはほかならんが、
そのペースが自分の力量を超えてるくらいわかってんだろ。
それ以上自分を煽ってどうする」
そう言ってAのノートを奪い、彼女の頭をそれでぽんと叩いた。
Aの顔は歪み、悔しそうな顔で男を見る。
「休みの日だから俺は優しいんだ。休み明けは覚悟しろよ」
そう言ってだるそうに部屋を出ていく。
Aはその背中に向かって小さく頭を下げる。
先程までの緊張した顔は少し緩んでいるような気がして、
「そこで突っ立ってねえで、少しはあいつと遊んでやれ。
お前ら高校の時からの付き合いなんだろ」
彼は松田が隠れていたことに気づいていたらしい。
通り過ぎ様にそう言われ、Aは松田の方を見た。
(あー…だる)
頭を掻きながら柱から身体を乗り出して、
「…新しいウェア買いに行くんだけど、お前も必要だろうが」
半ば強引に女の腕を掴み部屋から引っ張り出す。
文句言いたげな目がこちらを見つめていて、
(何でも楽勝そうな顔してる割には、他の奴らより面倒そうな立ち位置にいてちょっと可哀想だな)
無理矢理ノートを奪って、
「同じ底辺争いの奴がいなくなったら、俺が確定で最下位だろうが。
勝手に抜け駆けすんな」
べっと舌を出した。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時