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射撃という面では同じなはずなのに、緊張感がまるで違った。
それは人の生命がかかっているか否かだろうか。
「Aちゃん、凄いじゃん!」
授業が終わり、萩原は声をかけてきて勢いよく肩を組んだ。
後ろから相変わらずの仏頂面でAを見る松田が目を合わせず近づいてくる。
初めての射撃訓練で成績トップだったのはAだった。
それもそうだ。
持つものが違えどルールは同じだ。
未経験者が集まる中でこのような結果になったのは至極当然といっても過言ではないだろう。
「でも、総代達と変わらないくらいだから」
そう言いながら後ろを見れば、松田と降谷が悔しそうにAを見た。
(初めてでトップにいるなんて、そっちのが伸びしろあるしいいんじゃん)
彼らが悔しがることなんてない。
似たようなことを長年経験してきたことがこうしてすぐに追いつかれることのほうが、Aにとっては屈辱的だ。
ましてや、それ以外は何もない。
学業も他の実技種目も成績は下から数えた方が早い。
「A、次授業で小テストあるんだよ。大丈夫なの?」
「わかってるよ…でも私の頭じゃキャパオーバーなの」
幼馴染の腕を振りほどき、抜け出す助け舟を出してくれたルームメイトに近づいていく。
しかし、そのルームメイトこそ萩原の狙い。
Aと彼女の間を割り込むようにして、にこにこしながら話しかけてくる。
(あー…ほんとにこいつは)
呆れて歩く速度を緩め、一人になる。
時計を確認してまだ少しだけ時間があることに気づき、またいつもの定位置。
「よ、名狙撃手」
「その言い方やめてくんない」
松田はからかうようにしてそう言い、また煙を蒸かした。
途中から教官達が入ってきて、交えて会話を始める。
唯一の休憩時間だ。
松田は嫌そうな顔をして、まだ吸い終わっていない煙草を揉み消してその場から逃げていく。
(ずる)
Aだって休憩時間に上司と話したくはない。
とはいえ、彼ほど上手い立ち回りで逃げ出すこともできずその場に留まるばかり。
「Aの親父さんみたいにもっと優秀だったらいいんだけどなあ。
頭の方ももう少し頑張れよ」
「…はい」
親の七光りと言わんばかりに、教官達には父の名前を出される。
憧れのはずの父がこの空気の中では忌み嫌うものでしかなかった。
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作者名:Nattu | 作成日時:2024年2月20日 1時