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少しだけ興味が湧いた。
「悪い、先に行っててくれ」
「え？なんか用事？珍しいねえ」
「いいから先に行ってろ」
にやにやと楽しそうに笑みを浮かべる萩原を先に帰らせ、彼とは反対方向へと足を向ける。
橙色の光が校舎に降りかかり、温かい色に染める。
グラウンドからは運動部の元気な声が聞こえてくる。
(声は聞こえるけど、静かなもんだな)
目的地までは近い。
それなのに人がいる気配が消されていた。
不意に、
「「お疲れ様でした！！」」
どっと大きな声が聞こえて、反対側からたくさんの女性生徒達が歩いてくる。
暑い暑い、と着こなした着物の衿を緩めながらそのまま部室に消えていく。
(もう終わっちまったか)
少し残念な気持ちになりながら、ここまで来たからと目的地に向かえば彼女はまだそこにいた。
「先生、試合まであと残り少しなので、もう少し残って練習してもいいですか」
「Aは最後の試合だし、今のうちの希望の星だからねえ。
大会前だし、しっかり成績残してもらいたいから、少しだけなら許したげる」
「ありがとうございます！先生もお仕事があると思いますので、そんなに遅くまで残らないようにします」
Aは礼儀正しく頭を下げ、教師が後ろに控えたのを見て弓を手に取った。
ずっと奥にある的を真っすぐ見つめ、弓を構える。
(見たかったやつ)
弓が引かれ、ぴんと弦が引かれる。
きりっとした目が大きく見開いたとともに、矢は前へと風を切っていった。
「お…」
思わず小さく声が漏れる。
的の中央をしっかりと突いていた。
鋭い目つきの女は綺麗な姿勢のまま、前を見つめている。
こちらに気づく様子もない。
『Aちゃん、俺らなんかと違って真面目に学生生活送ってるからさあ。
その辺俺は尊敬してんだよねえ』
クラスで特段目立つわけでもなく、成績も運動神経も特別良い方ではない。
地味な存在ながらに、いつも部活の先輩後輩に呼び出され忙しそうにしている彼女。
その違和感をいつも疑問に思っていたが、
(ハギも言ってたけど、マジで力入れてんだな)
ようやく理解できた気がして、Aがきらきらと輝いているように見えた。
ただただ毎日を過ごす自分とは違い、羨ましいとも感じる。
本気で取り組むことは恰好悪い、そう思う自分の感性がほんの少しだけ変わっていくような気がした。
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作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
