1.high school ページ1
.
「A、後輩から呼ばれてるよ」
「待って、すぐ行く」
友人に呼ばれ、廊下に出ようとした時に視界の端に映る男達。
「陣平ちゃん、今日もうちに来る気？」
「いいだろ別に。どうせ暇なんだろ」
「暇だけどさあ…」
(また、千速さんのところか)
いつ萩原の家に顔を出しても、彼はそこにいた。
それはいつも彼の姉の顔を拝むため。
千速もそんな松田の気持ちを分かっておきながらも、綺麗な顔でにっこりと笑う姿は狡い立ち振る舞いだと感じていた。
後輩からの用件を聞き、教室に戻る。
そして、そのまま彼らの近くへと寄れば萩原は嬉しそうに顔を上げた。
「Aちゃん、今日うちに来るの？」
「ちょっとだけ顔出すだけだよ。父さんがおじさんのこと心配してたからさ」
「いつも悪いねえ」
車好きの父は近所に住む彼の父とすぐに意気投合した。
萩原とは所謂幼馴染という立ち位置だ。
とはいえ、幼馴染から想像される青春な関係を紡ぐことはなく、ただの友人止まり。
どちらかがそうなりたいと思ったこともなく、互いに父の知り合いだからとそれだけだった。
『アンタ達、何もないの？！ちっさい頃から一緒になのに？！つまんねえなあ』
いつか、彼の姉は言った。
そう言われ互いに困った表情で顔を見合わせたのを覚えている。
今では、経営難の彼の父の様子伺いと夕飯の届ける使いとして定期的に萩原家に足を踏み入れるだけだ。
「だんだん松田も萩原家の一員に見えてきた」
「だってよ、陣平ちゃん。来すぎだっての」
「うるせえな。お前んち居心地いんだよ」
口を尖らせながら松田は不服そうに言った。
放課後のチャイムが鳴り、慌てて自分の席に戻る。
相棒を背負い、急ぎ足に教室を出ようとした時、
「また来る時連絡ちょーだい！」
手をひらひらと振り、萩原はAは笑顔を向けた。
その隣の松田も仏頂面でこちらを見ていて、
(あー…人気者二人からこう見られると、なんだかなあ…)
周囲の視線を掻い潜るようにして、適当に手を振り返して部室に向かう。
「どうせまた松田が研二の家にいるんだよなあ」
そこまで大した交友関係もない彼に顔を合わせるのが面倒で、小さく溜息をついた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Nattu | 作成日時：2024年2月20日 1時
