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月日が流れるのは本当に早いもので、本格的に秋が深まってきた。
夜はかなり冷え込むっていうのに、こんな時にハロウィン騒ぎをしている連中は本当に物好きだよなァ、なんて思う。
そういえば、席替えをして及川とは席が離れた。けれど、相変わらず毎日話しかけてはくるのだ。
思えば及川と隣だった期間はかなり長かったんじゃないか。
毎日のようにマネージャーに勧誘されていたあの席が少しだけ懐かしく感じる。
及川たち三年は、春高予選で負けてしまったらしく、先月部活を引退した。
結局私は、バレー部の試合を一度も観に行かなかった。
一回くらい応援に行けばよかったかなぁ、なんて今になって少し思った。
もう、遅いんだけどさ。
その時ちょうど、及川が私の席までやって来た。
「Aちゃん、ちょっといい?」
妙に真剣な顔を見せる。
いつもはヘラヘラした及川の、その畏まった態度に柄にもなく緊張した。
『え、なに……?』
「今度の土曜空いてる?」
『空いてるけど』
「じゃあさ、俺とデートして!」
『……はい、?』
及川がやたらとバカでかい声で言ったせいで、クラスメイトが一斉にこっちを見た。
「及川やるなー、頑張れよー」
「梨木さんは手強いぞー」
「よっ!男見せろよ及川!」
そんな男子たちの声とは反対に、女子たちの悲鳴も聞こえてくる。
「及川くん、梨木さんのこと好きなんだよ」
なんて黄色い声だけじゃない。及川を本気で好きな女子が騒ぐ騒ぐ。厄介だな。
耐えられなくなって私は及川に言う。
『ちょっとなに急に!恥ずかしいんだけど、!』
「いいじゃん言わせときなよ。まぁそういうことだから、土曜日よろしくね」
『おいこら!まだ返事してない……!』
私の声も虚しく、及川は言うだけ言って教室を出て行ってしまった。
一人この場に取り残された私は、クラス中から変な視線を集めている。
「やっぱり及川くんは梨木さんのこと好きだったんだねー」
「そんなん見てればわかるよね」
「いいなぁ、羨ましい!」
「ずるい、私だって及川くんが好きなのに」
『…………』
言いたい放題な外野の声が、嫌でも耳に入ってきて鬱陶しい。
彼が一体何を考えているのか。
この時の私には、まだわからなかった。
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蜜柑(プロフ) - 卵おにぎりさん» ありがとうございます!最近更新できてなかったので頑張ります…! (2021年8月3日 14時) (レス) id: 6c0400a92a (このIDを非表示/違反報告)
卵おにぎり - とても好き! (2021年8月3日 11時) (レス) id: 9fc3fd6c87 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2021年5月30日 19時