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8.初めての“手”を ページ9

私とギムレーは今、ある村の大広場で林檎を食べている。

その村は今、祭りが行われているために、かなりの人で賑わっていた。

「無理を言ってごめんよ」

私は、隣で仏頂面になって林檎を丸齧りしているギムレーに謝る。

「別にいい。この世界も破滅と絶望に染まる。虫けら共が笑っていられるのも今のうちだ」

そう言う友を見て、私は苦笑を浮かべた。

「それが、キミの望みなの?」

私が聞けば、ギムレーはそうだ、と当たり前のことのように言う。

「どうして?」

「それは、我が破滅と絶望の竜、ギムレー。世界に破滅と絶望をもたらす竜だからだ」

そういうことじゃないんだけどなぁ。

「僕だけが答えてばかりだな。キミの望みは何だい?聞かせてごらん」

言い逃れはさせないとでも言うように、彼は私の目を真っ直ぐに見つめる。

もちろん、望みはある。
あるのだが……。

「キミの前では言えないかなぁ……」

「……へぇ〜。じゃあ、僕が当ててあげよう」

ギムレーは目を細め、食べていた林檎を手から出した炎で燃やす。

「我を裏切りたい。違うかい?」

私は驚きのあまり、言葉を失った。

違う。そんなことは望んでいない。

「私はただ……!」

「別に否定しなくてもいいよ。もし君が裏切ったと分かったときは、僕自ら消してあげよう」

そう言って、彼は優しく笑う。

このまま誤解されたままなのは、嫌だ。

1番の望みではないが、もう1つ、私には望みがある。

「私の望みは……キミと手を繋ぐこと」

私が言うと、ギムレーは目を丸くした。

「手なら繋いだだろう?」

「そうじゃなくて、直接繋ぎたい」

彼とは手を繋いだことは何度かある。

だが、いつも手袋越しなのだ。

彼はいつも手袋をしていて、その手袋を外そうとはしない。

ギムレーは、少し考えるように黙り込んでいたが、渋々、手袋を外してくれ、私の手を掴む。

温かい。そう思った。

「これでいいのかい?」

「あ、うん。ありがとう」

私が言えば、彼は手を離してすぐに手袋をしてしまう。

彼の手はとても綺麗で、白かった。

「君は、もう少し欲をもつべきだよ。僕と手を繋ぎたいなんて……」

ギムレーは呆れたように私を見る。

私にとっては、かなり欲深い望みだったんだけどねぇ。

「さて、そろそろ行こうか」

ギムレーは私が林檎を食べ終わったのを見届けると、そう言った。

そのときに、また私の手を引いてくれたのが嬉しかったと言うのは言わないでおこう。

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005(プロフ) - とても感動しました!すごくシリアスな展開からのハッピーエンド素敵でした! (2018年4月21日 21時) (レス) id: 1fcd95cf50 (このIDを非表示/違反報告)
やまたこ - 面白かったです100点! (2018年4月16日 7時) (レス) id: 4e05d1b0ac (このIDを非表示/違反報告)
リムス(プロフ) - 書き人知らずさん» こちらこそ、コメントをくださりありがとうございました。この物語を読んでくださり、ありがとうございます。 (2018年3月23日 12時) (レス) id: 27e40c194f (このIDを非表示/違反報告)
書き人知らず(プロフ) - 感動する物語をありがとうございました。 (2018年3月23日 11時) (レス) id: bdbb5f59e7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:リムス x他1人 | 作成日時:2018年3月1日 22時

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