35.大切な ページ38
何も見えない、凍えるような寒さのみが存在する真っ暗な空間に、私はいた。
どこからか、声が聞こえる。
「……ロム。ごめん……」
その声は、震えていた。
迷子の子供が、親を探しているかのように。
「誰がいるの?」
声のする方に、私は声をかける。
何故私がこんなところにいるのか、それを考えるのは後からでもいいだろう。
「そこに、誰かいるのかい?」
声の主は、驚いたように私に聞いてくる。
その声は、私のよく知る人の声だ。
「師匠!私です、リュヌです!いきなりこんなところにいて驚きましたよ。今明かりを灯しますね」
相手がルフレさんだと分かり、私は声を弾ませる。だが、ルフレさんからの返答はない。
「……そうか、君がリュヌか」
それだけ言うと、黙り込んでしまう。
そんなルフレさんを余所に、真っ暗なために目が見えない私は、手の感覚だけを頼りにズボンのポケットを探る。
ポケットの中に入っている魔導書で、明かりを灯そうと考えたからだ。
だがポケットに魔導書はなく、それどころか指にはめている指輪や、腰につけてある小さな袋までなくなっていた。
「君は……ギムレーをどう思う?」
黙り込んでいたルフレさんが、小さな声で不安そうに聞いてくる。
私はそれに、違和感を感じた。ルフレさんの口から出たギムレーという言葉。何故今日初めて会ったばかりのルフレさんが、ギムレーの名前を知っている?
「……ギムレーは、私にとって大切な人です。生まれて初めてできた、私の友達です」
私が言うと、ルフレさんは「そうかい」とだけ返して、また黙り込む。
しばらくの沈黙が続く。
その沈黙に耐えかね、私が口を開こうとしたとき、ルフレさんが先に口を開く。
「君を1度殺そうとしたギムレーが、君にとって大切な人なのかい?」
その口調はとても穏やかなはずなのに、その言葉の1つ1つは、私の胸に突き刺さった。
今でも鮮明に覚えている。彼に斬られた腕の血の匂いを。彼が昔、私に何をしたのかを。
その件について、ギムレーから私に聞いてきたことは、この2年間で1度もなかった。
けれど私は、知っている。
彼が私の二の腕を見て、悲しそうな目をしていたのを。辛そうに、唇を震わせていたことを。
ほんの僅かな表情の変化ではあったけれど、それを見逃すほど、私たちの絆は弱くない。彼は絆という言葉を嫌うけど、私はそうだと信じてるから。
「それでも、ギムレーは友達です。大切な」
だから私は、胸を張ってそう言えるんだ。
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005(プロフ) - とても感動しました!すごくシリアスな展開からのハッピーエンド素敵でした! (2018年4月21日 21時) (レス) id: 1fcd95cf50 (このIDを非表示/違反報告)
やまたこ - 面白かったです100点! (2018年4月16日 7時) (レス) id: 4e05d1b0ac (このIDを非表示/違反報告)
リムス(プロフ) - 書き人知らずさん» こちらこそ、コメントをくださりありがとうございました。この物語を読んでくださり、ありがとうございます。 (2018年3月23日 12時) (レス) id: 27e40c194f (このIDを非表示/違反報告)
書き人知らず(プロフ) - 感動する物語をありがとうございました。 (2018年3月23日 11時) (レス) id: bdbb5f59e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リムス x他1人 | 作成日時:2018年3月1日 22時