あの、シュークリーム落としましたよ。【HQ】

高波を乗り越える強者であれ。 ページ9

.

｢松川一静……もしかして、バレーやってる？｣

｢いや、やってない｣

｢なら知らねえな。聞いたことあるかもとか
思ったんだけど、多分そいつは違う奴だな！｣

知らない。まあ、そうか。
バレーの試合を見に行くなんて、一言も
言ってなかったし。

けど。

ならなんで。

部活に入ってないなら。

なんで、エナメルバッグなんか持ってたんだ
ろうか。

今度あったら聞いてみようかな。

で、早速。

｢シュークリーム、食う？｣

放課後、会いました。

｢……いや、なんであんたまたシュークリーム
食ってんのさ。しかもこの道、よく考えて
みたら青葉城西結構遠くない？｣

｢気のせいだろ、気のせい。それより、早く
公園行こうぜ。今日は結構星、綺麗じゃね？｣

早くも見え始めた星に目を向ければ、
満点の空。

都会の空ではこういうのが見られないんだ
とか。

今日も今日とて、遅帰りしてしまった私は、
昨日の道で帰ってきたのだ。

ブランコを揺らしながら、シュークリームを
口に放り込む。

｢……あ、松川｣

そういえば、エナメルバッグのことを聞くん
だった。

なんて、ふと思い出したことを口に出そうと
して、話しかけてみれば。

ボーッと空を見て、反応しない松川。

聞こえないのかと思って、何回も呼びかけても
反応がなくて。

無視とかではないんだろうけど、腹が
立ってきて。

｢……松川！！｣

暗い公園で、大声で名前を呼ぶ。

近所迷惑ではないか、なんて後から気付いて、
ふと口を抑える。

｢うお、なんだよ、ビックリした｣

｢……いや、さっきから呼び掛けてたんだけど｣

｢あー、そうなん？悪い、ボーッとしてたわ｣

おかしい。自分の苗字何回も言われても、
てんで気付かないなんて。

余程の考え事？

｢あんたってさ、エナメルバッグ背負ってん
じゃん？部活してないのに、なんで？｣

私は文化部だったから、エナメルバッグなんて
背負ったことも無かった。

けど、運動部はよく肩からぶら下げていて。
それを、松川は今している。

部活はやってないと言っていたのに、なぜ？

｢……あー、これ、中学ん時買ってもらった
やつなんだよ。大切にしてんの｣

｢その割には、随分綺麗なんだねえ、
松川さん？｣

｢……どういうことだよ｣

｢いやいや、別に｣

シュークリームの袋を適当にまとめて、
リュックん中に突っ込む。

ブランコから立ち上がって、星を見上げて、
ニンマリ。

｢じゃ、食べ終わったし帰るわ。
またねー、松川｣

また、明日。

それだけじゃあ、勿体ないから。→←お腰につけたシュークリーム、どうぞ私にくださいな。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す