あの、シュークリーム落としましたよ。【HQ】

シュークリーム。 ページ33

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本当に、短い時間だったんだと思う。

でも、私にとってその時間は、酷く長く感じ
られた。

心臓の鼓動は高鳴りすぎて、もう、無視する
しかなくなってしまった。

唇が離れるのが名残惜しくて、離れていく
花巻の瞳を、最後まで、じっと見ていた。

｢……あま｣

何かを噛み締めるような、そんな表情で一言
零した花巻を、見つめていた。

タオルは、花巻の手によってもうとられて
いて。

お互いに濡れたまま、未だどこか近い距離感
の中、見つめ合う。

｢……シュークリーム、みたいだった｣

感想言え、なんて言われた訳じゃないけど。
本当に、シュークリームみたいだったんだ。

男のくせに、ふに、とした柔らかい唇。
でも、雨に濡れてどこか湿っていて。

あと少しで、互いに唾液が混ざり合う。
そんな、距離感。

嗚呼、そう。例えるなら、シュークリームの、
1口目。

湿った生地に、中のクリーム。

あの感覚が、少し、苦手だったけど。
でも。

｢……美味しかった？｣

なんて、ふざけて言う花巻に、私も、何か
仕返しがしたくて。

｢……うん、最高。甘くて、溶けそう｣

なんて、自分でも小っ恥ずかしいセリフを
零す。でも、本当に、甘かったんだ。

それを聞いた花巻が、今度は、一気に顔を
赤くして、

｢あー、もうほんと、何、仕返し？｣

顔を覆っている。

｢うん、仕返し。

それより、シュークリーム食べよ｣

お腹空いた、と笑った私に、
ムードどこいった、と笑う花巻が、また、
口を開いた。

｢……それより、シュークリームよりも、
甘いもの｣

強請るようなその声に。

甘えるような、その声に。

酔わされて、ほら、また、ゼロ距離。


ふに、とした、唇の感覚。

甘く広がる、シュークリームの味。


｢……は、ちょ、花巻｣

｢違う。貴大、だろ？A｣

｢……たかひろ｣

｢はは、よく出来ました｣

ある片田舎の、小さな公園で。

2人の男女が、縁を結んだ。


シュークリームみたいに甘い、恋でした。

でもどこか、苦味もありました。

ですが結局。

シュークリームみたいに甘い、とろける、

キスが、あなたに降りかかりました。

暗くなった空。月が、綺麗で。

小さく笑った花巻が、私の手を掴んで、
ムードもなく、こう言うのだ。



｢とりあえず、シュークリーム食べねえ？｣



あの日、声をかけたから。

あの日、シュークリームを拾ったから。


あなたに出逢えた、そんな奇跡を。

2人で味わえたら、最高でしょう？



ねえ、花巻。



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