あの、シュークリーム落としましたよ。【HQ】

なまえ。 ページ32

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｢たか、ひろ｣

もう、耐えきれなかった。ほぼというか、
完全にゼロ距離になってしまった、私達の
距離感。

まつ毛が互いの目に入ってしまうんじゃないか
と思うほどに。

近い、近い。

必死に呼んだ、貴大、という言葉も、どこか
上ずってしまった。

｢……ふは、かわい｣

小さく吹き出した花巻が、可愛い、なんて零す
から。更に、心臓の鼓動が早くなる。

嗚呼、早すぎだって、本気出しすぎだよ、
心臓よ。これ以上は、本当に。

ってか、可愛いって何。こんなブスに対して
可愛いとか、目腐ってる。

言いたいことが山ほどあって。
でも、もう何も言えなくて。

固まった私を見て、花巻が、また笑う。
やめて、こんな至近距離で笑わないで。

また、呼吸が上擦るから。

ねえ、やめて。

これ以上、花巻に、酔わせないで。


｢……なあ、キスとか、ダメっすか、ね｣


変に敬語じみた言葉を発する花巻。
でも、その言葉は、もう、私の頭を混乱させる
には十分すぎて。

｢……はあ！？｣

思わず、今までつっかえていた分も、声として
出てしまった。急に叫んだ私を見て、少し睨ん
だ花巻が、目を逸らす。

｢……俺だって、恥ずいっての｣

じゃあすんな、なんて言えなくて。
だって、だってさ。

私も、今、花巻と。

キスしたい、とか、思っているわけで。

｢……いや、でも、ほら、早くないですか｣

｢キスに早いも何もねえだろ。俺がしたい｣

嗚呼、もう、殺し文句。
やめてよ、本当に。心臓が爆発しそうだ。

｢……じゃあ、1回｣

私の頬をさすっていた花巻の手は、いつの間
にか、タオルを掴んでいた。

そのまま、私達にかかっていたタオルを、
更に深く被せて。

周りの景色が、シャットダウンされる。

｢……りょーかい｣

小さく呟いた花巻の唇が、そのまま、私の唇に
近付いていくのが分かった。

どこを見ればいいか分からずに、視線が、
あっちこっちに向いている私を見た花巻が、

｢……俺の目、見てて｣

なんて言うから。

もう、何も考えられなくて。

只管、花巻の、澄んだ、綺麗な瞳を見ていた。



ふに、とした、柔らかい感覚。

短く、でも長い、リップ音。



｢ん……｣

小さく漏れた、吐息混じりの声。


雨上がりの公園で、少し暗くなった、公園で。

街灯が、水溜まりを照らす。



見てて、と言われた花巻の瞳は、完全な

男の目。

熱を含み、もう、逃がしてはくれない。


心臓の鼓動が止まない、今、この瞬間。



私達は、そっと、唇を重ねた。

シュークリーム。→←本音。

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