あの、シュークリーム落としましたよ。【HQ】

好き。 ページ28

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｢花巻｣

｢……ん？｣

｢花巻｣

｢おう｣

｢花巻、貴大｣

｢なんだ、高津A｣

花巻貴大。良い名前。ピッタリだよ。
目尻が、熱くなってくる。少しずつ流れ出す涙
は、雨に紛れて、私の頬を伝う。

｢……昨日、どうして、あそこに？｣

スカートがはりついて気持ち悪い。ブレザーも
腕にベタつく。

でも。

知りたかった。

｢……俺の友達に、岩泉って奴がいるんだ。
そいつの好きな人が、昨日、一緒にいた奴。

岩泉が、俺の好きな人がお前のことを好き
だから、告白を受けてくんねえか、って。

流石に、あんな顔されちゃ断れねえ｣

少し伏し目がちに、話し出した。
……嗚呼、そっか。なんとなく、わかった気が
する。

岩泉、さんの気持ちも、あの女の子の気持ちも
全部、わかる気がする。誰も悪くは無いのに、
皆がそれぞれ、自分達の首を絞めあって。

｢……そっか。花巻は、優しいんだね｣

｢は、なんだよ、いきなり。ってか、そういう
お前だって、なんで、昨日……｣

照れたように声を絞る花巻が、何だか、おか
しく思えてしまった。

｢同中の仲良かったメンツで遊んでた。
昨日花巻と会ったときにいた男子は、今も同じ
高校通ってる。

……見たことない？常波高校男子バレー部の、
池尻隼人｣

人懐っこい笑顔を思い浮かべる。
自然と笑みがこぼれて、それを見た花巻が、
口を尖らせた。

｢……好きな奴、とか？｣

｢……好きだった人。3年間の片思いなんて、
あっという間だよ｣

あっという間だった。好きを言わせなかった
彼奴と、言いたかった私。お互いに子供だった
ように思える。関係を深めたかった、私は。
でも彼奴は、それを望まなかった。

でも、私は、本気で彼奴が好きだった。

｢そんな顔、すんな｣

どんな顔だよ、なんて笑ってみせるけど、
なんでかね、視界が眩む。

泣きそうな顔だよ、って言われたから、嗚呼、
もう泣いてるよ、なんて笑って。

嗚呼。

でもね、花巻。

違う、違うんだよ。

現在進行形は、今、目の前にいるんだよ。

｢でも、なんで花巻は嘘を……？
別に、偽らなくても良かったじゃん｣

｢……近付きやすいようにと思って、バレー部で
あること隠してたし。お前、強豪嫌いだって
言ってたから、直せなくて｣

｢はは、なるほど｣

笑うなよ、と睨んでくる花巻の頭に、そっと
手を乗せる。

ふわりと掛けられたタオルで、そっと、花巻の
髪を拭く。


ピンク色の髪から見える耳が、少し、赤色に
染まって見えた気がする。

だから。→←うん。

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