あの、シュークリーム落としましたよ。【HQ】

ねえ。 ページ26

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雨が降ってきた。

足元、顔、髪、服。

全部が、少しずつ、濡れていく。
その感覚が気持ち悪くて、思わず、溜息を
吐いた。

……いや、思えば、不安を取り除くための溜息
だったのかもしれない。

もし、いなかったら。

そう思えば思うほど、私の心は沈んでいく。

金曜、一方的に公園にいかなかったのは私だ。
でも、どれだけ自分勝手でも、良い。

今日は、居て欲しい。

自然と、足が動くんだ。

松川の方に、足が、動いてしまうんだ。

彼女だったらどうしようとか、色々、不安ばか
りが溜まるけど。

でも。

それでも、今、唐突に。

あんたに、会いたくなったよ。

顔を伝う雨が邪魔くさい。いつの間にか大雨
1歩手前くらいまできていた雨のレベルに、
また、溜息をつく。

心臓がうるさい。

大丈夫、大丈夫。

会って、何を言おうか。

何を、聞こうか。

そればかりが、頭を往復している。


｢……いた｣


公園に、足を踏み入れた。

土が泥と化して、靴にぬめりつく。

嗚呼、気持ち悪い感覚だな、なんて、意識を
違う方へ持っていこうとするけど。

でも。

俯いた、ピンクがかった髪が、目から離れ
なくて。

｢諦めたく、ねえよ……｣

消え入りそうな声が、聞こえた。

雨の音で、本当に、聞こえるか聞こえないか
くらいだったけど。

吹奏楽部で、本当によかったと思う。

少しずつ、足を、進める。

ブランコの近くへ、そっと。



｢……雨が、止みませんね｣



何故自分がこの言葉を選んだのか。
分かりもせずに、松川を見つめていた。

瞬間、松川が、花巻と呼ばれた松川が、顔を、
上げる。

綺麗な瞳。

普段は気だるげに伏せられた瞼が、一気に、
開かれる。

嗚呼、今、この瞬間。

世界が、スローモーションになったみたいに。

雨の音すら、遮断されたみたいに。

息遣いしか、聞こえない。


｢……月も｣

｢……うん｣


目と目が、交わる。


｢晴れたら、きっと、月も、綺麗に見える
だろうから……！

だから、一緒に、いませんか｣


心臓が、一気に締め付けられる。

嗚呼。

甘酸っぱい、いや、甘い。甘いしか、口には
残らない。

名前のついた感情は、私の胸から溢れんばかり
の主張をし始める。


｢……とりあえず、シュークリーム、
食べませんか？｣


初日、あんたと私が出会った日。

悪びれもなく、あんたが私にシュークリームを
見せたように。

シュークリーム、ではないけど。


タオルを鞄から取り出して、ピンクの髪に、

ふわりとかけた。

うん。→←雨が止まない。

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