壱 ページ1
10歳の頃、許嫁の存在を知った。
初めは不満だったものの、別に愛がなくとも暴力的じゃなければいいか、と思い受け入れた。
11歳の頃、許嫁と顔合わせをした。
名前は鱗滝左近次。Aより5、6歳ほど年上だとか。とても優しい顔立ちをしていた。
「……」
「……」
第一印象は静かな人。その言葉通り、彼はとても静かで冷静な性格をしていた。
もう一つ加えるなら無口だろう。この客間に通されてから名前しか口に出していなかった。
頭の中は何を聞こうか、話そうか、という焦りで埋め尽くされていた時で。
重くも軽くもない沈黙を破ったのは意外にも鱗滝左近次だった。
「……甘水さんは、和菓子屋だと聞いた」
「え、あ、はい」
何を作っているのか?
そう聞かれた。なんて答えよう。饅頭と答えればいいのか、最中と答えればいいのか、みたらし団子と答えればいいのかわからない。
そんな困惑を読みとったのか彼は「緊張しているんだろう。焦らなくていい」と気を使ってくれた。
そこでAは気づいた。案外優しい人なのかもしれない、と。なら積極的に関係を築いていけないだろうか。
雰囲気が変わったのをまた読みとってくれたのか、彼はほんの少し微笑んだ。
「……」
Aは気づいた。確信と言ってもいい。今私は目の前にいる彼に“恋”をしたんだ、とか。
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作者名:蜜 | 作成日時:2019年6月18日 0時