浴槽から這い出てきたもの ページ1
久々に、思った以上に汚れてしまったので、
今日の最後にゆっくりとお風呂に入ろうかと
思っていました。
お湯を貯める為に風呂場まで行き、ふと
おかしなことに気付きました。
私は今日一度も風呂場に行っていないのに、
水が流れている音がしていたのです。
誰かがまだ残っていたのでしょうか。
面倒だなと思いながら扉を開けると、
流れていた水が止まりました。
近付いて見てみると、水は黒く濁っていて、
それでいて無数のキラキラした星の様なものが
浮かんでいました。
とても美しく、現実的ではない光景でした。
吸い込まれる様に右手を伸ばすと、次の瞬間
水の中から大きな手が現れ、私の右手を
掴んだのです。
びっくりして左手に持っていたナイフで刺すと
「いった」
と、声までしました。
しかもナイフで刺したのに、その大きな手は
私を離しません。
どうしたものかと悩んでいると、ザパァと
音を立て水が盛り上がり。
人が、現れました。
とても大きな人でした。
薄暗くてよく分かりませんが、変な髪色で、
それに、紫色の、なんだろ、触手だ、
紫色の触手みたいなのが付いています。
明らかに普通の人間じゃないです。
怖くなってまた刺そうとしたら、触手に取られて
何も出来なくなりました。
「…いきなり何するんですか」
低い、けれどなんだか落ち着く声に
私はびくりと肩を振るわせました。
…落ち着きましょう、冷静にしないと。
『不審者が被害者面しないでください』
「あ〜まぁそれはすみませんが、流石に刺すのは
ちょっと酷くないですかね」
『だったら手を離してください』
「離したら俺の話、聞いてくれます?」
『あなたの態度次第ですかね』
「…分かりました」
そう言って、緩んだ隙に手を払い距離を取る。
「警戒心がお高いようで」
『割と命を使う職業をしていますから』
「怖いなぁ、俺は普通にただの鑑定士とヒーローを
やっているだけなのに」
『浴槽から現れるのが普通なんですか?』
「あれは事故なんですよ、あぁそうだ申し遅れました。
俺は星導ショウと申します、貴女は?」
『………Aです、けれどあなたには呼ばれたく
ありませんので呼ばないでください』
「俺達初対面ですよね?」
『そうですね、それが何か』
「随分と嫌われてしまっているな、と」
『得体のしれない、気持ち悪いものを警戒しない
人間は居ませんよ』
「酷いですね〜」
154人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:徒花(腐女子) | 作成日時:2024年2月9日 0時