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払暁3 ページ4

***

ふ、と意識が浮上し、仄明かりに眼を開ける。

鳥のさえずりが遠く響き、何処かの家のかまどの匂いが、朝の気配を連れて薄く漂う。

意識を体に巡らせれば、布団に身を包み、自分の肩に大きく腕が回されている体勢を認識する。

その大元を辿れば、音にならない程の僅かな寝息を立てて眠り落ちている男、不死川実弥。額に走る大きな裂傷に似合わず穏やかな表情をしている。


嗚呼、夢か。

昨晩は今にも倒壊しそうな狭いあばら屋ではなく、不死川邸で幾日後に始まる柱稽古の流れを確認し合った。

担当する内容を他の柱達に伝えるべく互いに鴉を飛ばし、そのままもう遅いからと夕餉を取り、宵の酒を交わして泊まったのだった。

心臓は未だ早く波打っていたが、目覚めの時から強張っていた体の緊張を解く。そういえばあの夢の時も、年を跨いだ今位の時期だった気がする。

あの頃とはなにもかもが違う。

志を同じくする仲間を知り、呼吸を知り、鬼に、何より自らの心の内に無限に巣食う恐怖に抗う術を知った。最早自分たちは夜に怯える幼子ではなく、それらを守り育む存在となっている。

自らを落ち着かせようと、息を深く吸い込む。

その拍子に目の前の体から発せられる寝息が一瞬止まり、長く伸びた睫毛が震えて、寝ぼけた眼差しが自分を見据える。


「おはよう」

「…、おォ」


ぼんやりと呆けた返答に、弱り切った幼子の彼が一瞬重なる。

大丈夫だ、目の前の不死川は、怪我にも熱にも侵されていない。何時までも竦んでいる自分の心持ちを叱咤する。

そのまま此方を眺めてくる視線から目を逸らし、脳裏にこびりつく昏い記憶の残りを払おうとして身じろぎをする。


「どうした」

「水を、汲んでこようと」

「それは、構わねェが。泣きそうな顔してんぞ、怖い夢でも見たかァ」


段々と意志を持ち始めた声音で餓鬼か、なんて呟きながら肩に回したままだった腕が解かれる。胸元に引き寄せられ、ゆっくりと大きな掌に撫でられる。

体温と穏やかな鼓動がじんわりと伝わり、恐怖と寒さの残響が跡形も無く霧散していく。朝靄の空気と部屋香と不死川の匂いが混ざり、僅かな眠気と大きな安心感に包まれる。

自分は長女だったから上の兄弟姉妹は居なかったけれど、それに甘えられたなら、こんな感じなんだろうか。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川 , 実弥   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:aka | 作成日時:2020年1月8日 9時

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