恋相談2 ページ30
ソファに丸まって両手で皿を抱える大の男は中々面白い絵面だけれど、大きな大きな眼に長く見つめられて、居心地はあまり良くない。如何やら自分のした行動は、彼の思惑に沿うものではなかったらしい。
妙な沈黙の時間に、相変わらずうだつの上がらない報道と暖房器具の振動が室内に木霊する。
他にどう応えたものか分からず逡巡していると、ため息交じりにさっさと皿を机に置かれ、やんわりと胸の中に抱き寄せられる。慌ててバランスをとろうと肩を引くと背後から両腕がまわり、手の内のマグカップを奪われる。
あっという間に、不死川の大きな体に後ろ向きにすっぽりと包まれた形になった。
此れがしたかったの、と笑いながら聞けば、寒ィんだから仕方ねェだろと紅茶を嚥下しながら応える声も愉快げに揺れている。
無防備だった背中が新たな熱源と接触して、じわじわと体全体の温度が上がっていく。程なく手中に返された紅茶を啜れば、自分の体温につられて少しばかり液体の熱も上がった気がする。
巷では鬼教師だの堅気じゃないだの言われているこの男、その体温はしかし自分以上に暖かい。
少し前に年一回の学校健診があった時に教えて貰ったことだが、不死川実弥なる男は平熱がだいぶ高めであるらしい。所謂子供体温と云うものらしく、世の中の印象とは違って冷たい血は流れていないようだ。
自分の分の紅茶が無くなり、新しく入った不死川の分のを渡しても体勢は変わることはなかった。
「不肖わたくしめは、お役に立てておりますでしょうか？」
「申し分ねェ。満点だなァ、A」
しばらくそのままで、追加のお茶を出したところで二人して不死川おすすめの美味しいケーキにありつく。
この前家の近所で見つけた処だが中々どれも美味くてな、と自分のすぐ後ろで美味しそうに咀嚼しながらニュースに見入る姿に、思わず笑ってしまった。
自分もその後のドラマに見入っていたら、不意に苺を後ろから口に突っ込まれて焦った。
年度末に差し掛かる今日こそは来年度の授業傾向を二人でまとめようと思って誘ったというのに、忙しくて久しぶりに家で会えたのを言い訳に、ソファでごろごろしながら、テレビを見ながら、パーティーゲームをかじりながら、最近面白かった本の話をしながら、だらだらしてしまった。
結局まともに仕事ができたのは、日が落ちてからになった。
***
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作者名：aka | 作成日時：2020年1月8日 9時
