Astilbe Ⅱ (ページ26)

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河野純喜ページ26

バカなふりを、おっちょこちょいなふりをしていた

だってそうすれば、何してんねんって言いながら笑ってくれたから

でももう、疲れちゃった

「Aは本当におっちょこちょいやなあ」

「Aってほんま抜けてるなあ」

そう言われるのが好きだった

だって純喜くんが笑ってくれるから

純喜くんは誰にでも平等に優しいだけ

でもその笑顔を一瞬だけでも独り占めできるなら、って

純喜くんに彼女がいるのなんか知ってる

学校で知らない人なんていないくらいには有名だ

幼馴染だから、私の方が年下だから優しくしてくれてるのも知ってる

でも諦められなくて

ずっと同じことを繰り返してきた

でももう、それも終わり

「Aはほんとにおっちょこちょいやなあ」

そう言って笑う顔が大好きだったのに

あんなに嬉しかったセリフなのに、今では私の首をじわじわと締めてくる

おっちょこちょいなふりをして何になる

純喜くんが振り向いてくれるわけもないのに

純喜くんが恋愛的な意味で好きになってくれることなんてないのに

「A！一緒に帰ろや！」

純喜くんはこうやってたまに私のことを誘ってくれる

「…うん！帰ろ！」

今日で最後と決めて、私は教室を出た

「今日はな〜！」

そう言って、上機嫌で話し出すのがいつものパターン

話すことは大体決まってる

サッカーの話か、彼女の話

いつもなら私も頑張って相槌を打つけど、今日は頑張らないことにした

「…A、なんか元気ない？」

「そんなことないよ」

本当にそんなことはない

だってこれが素なんだもの

いつも頑張りすぎてただけ

「純喜くん」

「ん？どしたん？」

とても優しい表情

でも、それは

「…私ね、純喜くんが思ってるほど、おっちょこちょいじゃないんだよ」

「…？」

純喜くんは不思議そうな顔をした

「私は純喜くんの隣にいられるほど、綺麗じゃない」

私の心の中を覗いたらきっとびっくりすると思う

純喜くんはいつも私のことを、すごく純粋で綺麗なもののように扱ってくれるけど、それが苦しかった

「純喜くん離れする」

「え、…」

「だからね、ばいばい」

そう言って顔も見ずに家まで走った

恋人にはなれない、幼馴染としているのももうしんどい

さよならした方がこんな気持ちにならなくて済むならこれでいい

「好き…大好き…」

吐き出した言葉と共に、この気持ちもどこかに捨てられたらいいのに