Astilbe Ⅱ (ページ13)

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#3 ページ13

「俺のこと、見てください」

その言葉にドキッとした

「…気付いてますか？A先輩は時々俺のことを見て、すごく悲しそうな顔をしてるんです。俺のこと、見ているようで見てないんです」

そう言いながら私の手を握った

なんで、そんな切なそうな顔をするの

「A先輩の過去に何があったのか、俺は知りません。でも俺を、佐藤景瑚という人間をちゃんと見てほしい。お願いだから…」

そう言う佐藤くんの頬に伝う涙を見て、胸が痛んだ

佐藤くんの言う通り、彼と重ねてしまって、佐藤くんを極力避けようとしていた

私は佐藤くんをちゃんと見ていなかった

「…私ね、付き合ってた人がいたの」

他人には話してこなかったけど、佐藤くんにはきちんと伝えなきゃいけないと思った

「高校から付き合って、大学も同じところに行って、就活も上手くいって、あとは卒業するだけだった」

そう、あの頃何もかもが幸せだった

「大学最後の冬にね、彼が交通事故に遭ったの…大きな手術もしたけど、助からなかった」

その時の記憶が思い出されて、体が震える

「佐藤くんはね、すごく似てるの。その付き合ってた人に…初めて会った時、彼が化けて出てきたのかと思うくらいに」

「彼じゃないのなんて分かってる。もう二度と私の前に現れないことだって分かってる。でも、どうしても…」

そう言った時、佐藤くんにぎゅっと抱きしめられた

「辛い話させてごめんなさい…A先輩を泣かせたかったわけじゃないのに…」

佐藤くんの腕の中は温かくて、涙が溢れた

「無理にその人を忘れてなんて言いません。だけど…俺のこと、見てくれませんか…？」

今はそれで十分だから、と私の耳元で切なく呟いた佐藤くんの背中にしがみつくように腕を回して、声を殺して泣いた