豆原一成 ページ12
幼馴染が、好きだった人がアイドルになって早数年
好きだった気持ちを抑えることにも慣れて、テレビで見ても元気で頑張ってるんだなって思えるようになった
一成が遠くへ行ってしまって寂しいだけなんだって最初の頃は思ってたけど違った
一成のことが好きだったんだって気付いたのは最近だった
「豆原くんは今までに好きな人とかいたの？」
バラエティ番組にゲストとして呼ばれていた一成は司会者にそう聞かれていた
アイドルにそんなこと聞いていいの？
流石に答えないかうまく誤魔化すだろう
「そうですね…幼馴染のことが好き、だったかもしれないです」
「え、そうなの？！」
そういうこと言っちゃダメじゃんと思う自分と幼馴染ってどの子のことだろう…と気にしてしまっている自分がいて
地元は田舎の方だったから、小さい頃から一緒の子なんて何人もいる
きっと私じゃ、ない
もしかしてこういう台本なのかな、とそう思った
「幼稚園の頃から一緒なのが当たり前すぎて気付かなかったんですけど、離れてみて大事さが分かったというか…もしかしてこれが恋だったのかなって最近思ったんです」
「じゃあその子には気持ち伝えたりしなかったってことだよね？」
「そうですね…一緒にいる時はこれが恋だとも思ってなかったですし、ただ一緒にいて楽しいなって思ってました」
「私も、そうだったよ」
ぽつりと呟いた言葉は誰の耳に入ることもなく部屋の隅に消えた
「じゃあその子に向けて一言言ってみたら？」
司会者が少し意地悪な顔をして一成にそう言った
「ええ？！…じゃあ恥ずかしいですけど少しだけ」
一成は軽く座り直してカメラをじっと見つめた
「A元気？見てくれてるかな。俺、好きだったよAのこと…今はJAMのことが大好きだけどね！」
「わー！さすが豆原くん！ファンサを忘れません！」
私は画面の中で繰り広げられるやりとりについていけなかった
「Aって、言った…？」
聞き間違いかな、でも…
ぽろぽろと涙が溢れてきて止まらなかった
「なんで、かなあ…」
幼馴染に私と同じ名前の子はいない
うまく誤魔化せなくて咄嗟に私の名前を出しただけなのかもしれない
そう思いたいのに
あまりにも真剣な目で好きだったと言っていた一成が脳裏に焼きついて
気持ちにはちゃんと蓋をしたはずだったのに
「今更すぎるね…」
笑顔で私の名前を呼ぶ一成を思い出して私はまた泣いた
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作者名：咲彩 | 作成日時：2021年8月12日 17時
