押せば成る【影山飛雄】【３】

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その時、ポケットの中の携帯が突然音を鳴らす。

ビクッと肩を震わせ、慌ててそれを開けば母親からの着信だった。



「もしもし、あ、うん……うん、わかった、はい」

「……なんて？」

「…早く帰ってきなさいって…」

「も、もう遅いし、そりゃそうだよな。…帰るか」

「あ、うん…」



どぎまぎして上手く言葉が出てこないのは、スガも私も同じようだった。

そこからは終始無言で足を進め、あっという間に私の家の前までたどり着く。



「……じゃあ」

「うん」

「また明日」

「…じゃあね」



『送ってくれてありがとう』毎回言っていたこの言葉さえ、喉から出てこようとしない。

帰宅した私は頭の中をごちゃごちゃさせたまま風呂やご飯を済ませ、朝起きたら忘れていますように、願いつつと眠りについた。




☆☆☆




「おはようA」

「おはよ潔子ちゃん」



翌朝、普段通りの時間に朝練へ向かうと途中で潔子ちゃんと鉢合わせた。

2人並んで体育館へ歩き出す。



「あ！潔子さんおはようございます！！」

「今日も眩しい！！お美しい！！！」

「ありがとう」

「ねえ私もいるんだけど」



体育館に着くと、既に準備を始めていた田中と西谷。

潔子ちゃんにしか向いてない目線にツッコミをいれると、2人は途端に「あ、Aさんチワス」と先ほどとは別人のような真顔になった。



「え？舐めてる？」

「はははは！！冗談っすよぉ〜！！」

「ね、スガさん！！！」



後輩の舐めた態度に死んだ目でツッコむ私に突然笑い出した2人。そして同時にパッと後ろを振り向き、同意を求める。

すると2人の背後にあった倉庫の中からひょこっと顔を出したのはスガで、なぜか思わず目を見開いてしまった。


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