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ベンチで母親を待っていると、ほどなくして離れたところから廊下を走る音が響いてくる。
曲り角から姿を現したのは一人の女性と連れられた同じ歳くらいの男の子。
「あの、中山です！主人は…っ？」
「中山さん？こちらにはいらっしゃいませんよ」
そんなはずない！と女性が医師に掴みかかろうとした瞬間、
「お呼びしたのは私です」
母親がいつの間にか立っていた。異常なくらい静かに。
「あなた…は」
首を傾げた彼女はそのまま俺を見た。探るような瞳を受け止めていると、それに突如炎が宿ったのが見えた。
刹那、頬を打つ音が廊下に響く。
「このアバズレがっ…！」
その言葉の意味も、目の前の光景の意味も何も理解出来なかった。
ただ、
「この書面にサインをお願いします」
臆することも詫びることもなく書面を差し出した母親が、“女”の目をしていたのを覚えている。自分の知る人間ではない、と地面が抜けていく不安の中、男の子が無表情に女性を見つめていたことも。
父親はその日急逝した。
医師から告げられて間もなく、母親は俺の手を引いて病院を出た。
感情が麻痺して泣き方がわからなくなりながらも、いやだ、なんで、お父さんに会いたい、ととにかく叫んだ。それでも母親は振り向かず、歩を緩めないまま自宅に辿り着く。
ドアが閉まった途端、母親は俺をきつく抱きしめながら泣いた。
ごめんね、もうお父さんには会えないの、と何度も何度も俺の頭を撫でた。
それは残酷なまでの現実で、俺が再度父親に会えたのは墓に納骨されてしばらくしてからだった。
死顔を見ることも、葬儀に参列することも許されなかった。
当然だ、だって俺たちは「不倫相手とその隠し子」だったのだから。
その時覚えたのは“憎しみ”という感情。
知ったのは、「世界は嘘でできている」という単純明快な真理だった。
父親は真実を何も語らず逝った。でも俺は母親に何も聞かなかった。
母親が話してくれる時期を待とうと思ったのだ。
それは20歳の誕生日だったのだろう。話したいことがあるから、高速バスでそっちに行くから、と電話で話したのが…最後になった。
バスターミナルの待合所が突然ざわつき顔を上げた途端、テレビ画面に横倒しのバスが炎上している様子が映った。こちら行きだとテロップは伝えていた。
真実の鍵を失った俺は、完全にはなれない欠陥品だな
やっと立ち会えた母親の死顔を見ながら、声を出さず泣いた。
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こう(プロフ) - 結奏さん» 結奏さん、感想頂きありがとうございます！最後までお付き合いくださり、光栄です(^^)とにかく美しき悪魔・翔が書きたく、二宮さんも実はその遺伝子が一緒だった…が伝わっていれば嬉しいです。大野さんは勝手にラスボスになって頂きました。またお付き合いください♪ (2018年4月7日 22時) (
レス) id: 0fd2c64cf7 (このIDを非表示/違反報告)
結奏(プロフ) - こうさんこんばんは。ずっと楽しく読ませていただいておりました。翔さんの考えが読めずどきどきしましたが、翔さんが幸せを手に入れてくれるラストにほっとしました。すべてを分かっていそうな大野さん、さすがです…笑 (2018年3月25日 2時) (レス) id: a836a5dda1 (このIDを非表示/違反報告)
こう(プロフ) - とわさん» はじめましてー！感想ありがとうございます(*^^*)他の作品も読んで頂けてるなんて…本当更新遅くてすみません(今更 ; 最後までお読みくださると幸いです！感想頂けるとかなりやる気でるので、またお待ちしてますー♪ (2016年10月21日 0時) (レス) id: 582833fda4 (このIDを非表示/違反報告)
とわ(プロフ) - こうさん、初めまして。とわ、と申します。こうさんの作品をずっと前から読ませていただいていました。涙なしには読めないような作品もあれば、今回のようにドキドキする作品もあり、本当に作品の幅が広い方だなと勝手に感動しておりました。続きを楽しみにしています。 (2016年10月19日 13時) (レス) id: 6912f85516 (このIDを非表示/違反報告)
こう(プロフ) - 碧李さん» 碧李さんっ！感想ありがとうございます♪その胸の高鳴り、大事にしたいです(笑)パラレルに不慣れすぎて私が先が見えてくなってるかもですが（ｵｲ 、読ませないように必死になってます；ﾆﾉﾐﾔさんがこれから大いに振り回されますので彼の目線で楽しんで下さいませ♪ (2015年11月25日 1時) (レス) id: 0740dc5a96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こう | 作成日時：2015年8月17日 20時
