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「…ひ、……」
「陽斗」。
その名前を呼ぼうと動いた唇はだらしなく開いたまま、声を発さなかった。
彼の肩を優しく叩こうと伸ばした指は力が抜け、腕はぶらりと重力に従って垂れた。
「ごめんね」の一言。
一言だけ言えば済む話なのに。
冗談っぽく笑って「昨日はごめんね〜泣いたりしちゃって!迷惑だったでしょ〜」なんて、へらっと笑えばいい話なのに。
何年も続いた深い関係は、たったこれだけのことで呆気なく崩れ落ちてしまうものなの？
もしかしたら、今年が地球最後の年かもしれないんだよ？
何とかしたいという気持ち。
もうどうにでもなれという気持ち。
二つの矛盾した気持ちが私の心の中で混ざり合い、私のことを追い立てる。
陽斗、昨日はごめんね。
私、昨日ちょっと疲れてたみたいで、たくさん寝たらすっきりしたからもう大丈夫だよ。
心の中ではいくらでも言える。
でも、それは言葉として口から言わないと伝わらない。
謝ることだって、考えた言い訳を笑顔で言うことだってわけないの。
…心の中で、だったら。
陽斗はいつも通り明るく、
いつも通り笑顔で、
いつも通り冗談を言って、
いつも通り彼女「たち」の話をして、
いつも通り岡島君たちと雑誌を見ながら鼻の下を伸ばして、
いつも通り悠馬くんと楽しそうに喋って、
いつも通り真剣に殺せんせーを暗殺しようとして、
いつも通りクラスの女の子たちをお茶に誘って、
いつも通り岡野さんに蹴り飛ばされ、
いつも通りへらりと笑って、
――ずるい。
私はいつもと違って一人ぼっちで、
いつもと違って俯いて、
いつもと違って泣きそうになってて、
いつもと違って一言も話さなくて、
いつもと違って問題も間違えまくって、
いつもと違って暗殺にも参加しなくて、
いつもと違って笑わなくって、
…いつもと違って、悩んでいる。
私は「陽斗」という存在がいないと、こんなにも違う。
(「いつも通り」を装って)
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作者名：ここなっつ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年1月12日 0時
