邂逅 ページ1
.
高校に入学して間も無く、少しはクラスに馴染んできた頃だろうか。
悪夢のような家を出ることになった。
反対をなんとか押しきって、古いアパートの契約を結ぶことが出来た。
だというのにどうして最後まで、あの女に振り回されなきゃいけないの。
「………はぁ…」
ある日の夕方、久々に腹を殴られ、外に閉め出された。
今日一日ものを食べていなかったから、その衝撃で吐くものはなく、込み上がる胃液を飲み込むだけだった。
行く宛てもなく、人目につきたくないので路地裏に入り、座り込む。
建物の隙間から覗くはずの空を見上げたつもりが、そこにあるのは分厚く暗い、灰色の雲。
まるで世界に蓋をするみたいに空を覆う。
私が顔を上げた途端、こちらを見るなとでも言うかのように雨が私の目に落ちてきた。
今の今まで降ってなかっただろ……
そうは思うが、運命に見放されているのは昔から。
運命への嫌悪感は募るものの、嘆くなんてことは出来なかった。
次第に雨足が強まる。
選べる選択肢なんてない。ここで夜を過ごすしかないだろう。明日の朝方には家の鍵も開くはずだから。
「…………死んじゃえばいいのに」
ボソッと呟いたその声は、雨の音でかき消されたはずだった。
「………あァ？」
傘を差した誰かが、新しく出来た水溜りを踏みながら、路地裏に入ってくるのが分かった。
「………てめェ…ンなところで何してんだ」
聞き覚えのある声に顔を上げると、同じクラスの爆豪くんが私の方に傘を傾けて立っていた。聞かれていないだろうか。
「…えと、鍵……忘れちゃって」
ラフな服装で、しかも手ブラで路地裏に座っているというのに、こんな嘘が通じるわけないだろう。
だが彼は興味が無いのか、聞くだけ無駄だと思ったのかは分からないがそれ以上詮索することは無かった。
そのまま立ち去るのかと思いきや、私の腕を掴んで引っ張り、私は強制的に立たされた。
「………この状況で帰るほどアホじゃねェよ」
そう言って私の腕を引いて歩き始めた。
「え、ちょっと待ってどこ行くの」
「俺ン家しかねェだろが」
「は？」
思わず出てしまった一言。
「行くとこねぇンだろ。黙ってろ」
人に腕を引かれたことなんてなかった私は、戸惑うことしか出来なかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 45人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：コルネイユ | 作成日時：2023年3月4日 16時
